【鹿角抄(コラム)】穏やかな奈良の県民性は美徳、でも…
奈良県庁に入ると、1階ロビーには品のいいお香の香りが漂っていた。なんとかぐわしいにほひ…「おもてなし」の一貫で、春日大社でたかれているお香と同じものだという。さすが古都奈良、優美なものだ。
10月から奈良支局勤務となった。前任地は大阪。自宅は市内のど真ん中にあり、よく深夜に集団暴走をするバイクの爆音で目が覚めた。奈良に越してからというもの、草木のにおいを感じ、虫の声を聞きながら驚くほど安眠できるので、身も心も潤いを取り戻していくのを感じている。
とはいうものの、大阪にいたがゆえに、ゆったりとしたときの流れにつまずきそうになることもある。
先日、初めて荒井正吾知事の定例記者会見に出席した。驚いたのは、発表案件が「特になし」だったことだ。「特にありませんので各社質問があれば…」で始まった。もちろん毎回そういうわけではないらしいが、一度でもそういう定例会見があることにカルチャーショックを受けた。
各社の記者が一堂に会する定例会見は、県が情報を発信、アピールする絶好の機会だ。以前担当した千葉県では、記者会見室には県イチオシの商品や特産物が所狭しと並び、森田健作知事がイベントや県の施策を雄弁にアピールした。大阪や兵庫県を担当した他の記者にも聞いてみたが、「何もないという定例会見は聞いたことがない」と、どうやら珍しいようだ。
むろん、知事個人のせいではない。県職員が積極的に知恵を出し合い、どうすれば県をアピールできるのかを考える必要がある。知事も「何もないとはどういうことか」と叱咤激励して然るべきだろう。
穏やかな県民性は美徳だが、日本に、世界に存在感を示すためには消極的であってはいけない。魅力的な美しいまちだと、数日住んだだけでも思う。だが、いかんせん受け身。もっと〝奈良自慢〟をしたらいい。奈良県にはぜひとも奮起してほしいものだ。 (田中佐和)