故郷の魅力 歌声に乗せ―シンガーソングライターの氷置晋さん 新曲リリース
奈良市のシンガー・ソングライター、氷置晋さん(27)が今月、奈良をテーマにした新曲2曲をリリースした。かつてプロのバレエダンサーを目指したという異色の経歴の持ち主だが、今春からは地元の奈良に拠点を置き、地域に根ざした音楽活動を展開している。目標は「奈良の魅力を歌で伝えること」。透き通った声と軽やかなピアノでふるさとを歌う。 (神田啓晴)
プロダンサー目指し
音楽との出会いは小学1年のとき。同級生の女の子が教室のピアノを弾いているのを見て、「なんとなく」ピアノを始めた。だが、妹がクラシックバレエを始めたことをきっかけに、音楽からはしばらく遠ざかることになる。バレエにのめり込んだのだ。
「初めはバレエの伴奏をする『バレエピアニスト』に興味があったんです。でも、バレエの方にはまってしまいました」と氷置さん。バレエの練習は1日10時間以上という過酷なものだった。血のにじむような努力で実力を伸ばし、16歳のころにはオーストラリアで開かれたバレエコンクールで入賞。一時はプロのダンサーを目指した。
だが、高校入学後は伸び悩み、スランプに突入。そんなとき、友人に誘われて入部した軽音部で、再び音楽と出会った。
東日本大震災が転機に
仲間と奏でる音楽は楽しく、大学でもサークルでバンド活動を続けた。だが、平成23年3月11日に発生した東日本大震災が、当時大学生だった氷置さんの音楽活動に転機をもたらした。被災地の惨状を前に、「単純に友人とわいわいはしゃぐのが楽しかった」音楽を、「被災者の支援に生かしたい」と考えるようになったという。
さっそく地元、奈良市のJR奈良駅前で友人と路上ライブを開催。すると、1カ月間で義援金約200万円が集まった。「音楽ってこんなことができるんだ。自分の音楽が誰かの役に立つんだ」。確かな手応えを感じた瞬間だった。
22歳でプロミュージシャンになることを決意。大学を中退し、活動の場を東京に移した。
東京では飲食店でピアニストやシンガーとして活動していた。だが、あるとき経営者から「あなたの音楽を本当に応援してくれる人たちはどこにいるのか」と問いかけられ、自分の中の思いに気が付いた。「地元を大切にして、音楽でまちおこしをしたい」。今年3月、奈良に戻り、地元でのライブ活動を始めた。
商店街テーマソングに
今月、氷置さんはふるさとへの思いを歌った「変わらないで」と「いにしえの風」の2曲入りCDをリリースした。「変わらないで」には1度離れた奈良への思いを込め、「いにしえの風」では、奈良市の商店街「もちいどのセンター街」のツバメの巣に人々の移ろいを重ねた。
《♪やがて皆巣立つけど 帰る場所はここにある》
郷愁を誘うこの「いにしえの風」は、もちいどのセンター街のテーマソングになり、毎日道行く人の耳を楽しませている。
来年4月には、なら100年会館(奈良市)でのコンサートも予定している氷置さん。「『奈良の歌手といえば氷置』といわれる存在になれるように、奈良を盛り上げたい」と、今後も奈良市内を中心に活動の場を広げていくつもりだ。
CD「変わらないで/いにしえの風」はきらっ都・奈良(奈良市)などで販売している。コンサートの前売り券は3300円。問い合わせは奈良ミュージックデザイン(☎070・5014・7161)。