【鹿角抄(コラム)】 心惹かれる奈良文化 出不精だけど…もっとどっぷりつかりたい
昨年は就職に人生初の一人暮らしに、と変化に富んだ1年だった。仕事で運転することも多く、奈良という土地にも慣れてきたように感じる。
そこでふと、プライベートで「奈良らしいこと」を体験しているだろうかと思い返してみた。「正倉院展の鑑賞」や「東大寺、春日大社への参拝」…。あれ、思っていたよりも奈良を堪能していないと気がつく。赴任当初は寺社巡りや御朱印集めができると意気込んでいたのだが、いかんせん出不精がたたった。何とももったいない8カ月間を過ごしたものだと後悔している。
年末、紙面の企画で茶道の体験をした。もともと興味はあったが、茶道に触れるきっかけもなく、全くの初体験。教室ではまず、正座に苦戦した。実家に畳はあるが、正座をする機会はなく、たったの15分ほどで足がしびれてしまった。しかし、正座をするだけで、姿勢を正し、背筋を伸ばそうという気持ちになった。
ひとつひとつの作法を教えていただきながらお菓子を食べ、お茶をいただく。茶碗を動かす動作ひとつをとっても細かく決まっていることに驚いた。記者はたどたどしい動きしかできなかったが、教室に通う生徒の方々は非常になめらかで指の先まで美しく、つい見ほれてしまう所作だった。
体験では薄茶だけでなく、濃い茶もいただいた。濃い茶は溶かしたチョコレートのようにとろみがあり、「飲み物」ではない初めての感覚だった。茶道では、濃い茶は「飲む」ではなく「喫する」という言葉を使うのだという。指導してもらった堂後宗邑教授(49)は、「口に入れて味わうことを意味し、喫茶の語源は茶道にある。茶を味わう文化は昔から奈良に根付いていた」という。茶道発祥の地での体験は、想像以上に心ひかれるものだった。
スキルが身につくだけでなく、その所作や長く続く文化が心を穏やかにしてくれる茶道。奈良にいる間に奈良らしい文化を習い初めてみるのもいいかもしれない、と今前向きに検討中だ。 (石橋明日佳)