【交通安全】 便利さよりも安全を確保した国道369号 ポール設置で事故ゼロを確保
奈良市中心部を東西に走る「大宮通り」(国道369号)。道路沿いの北側に立つ大型商業施設「イトーヨーカドー奈良店」前はかつて、奈良県内の交通事故発生件数ワースト3位の〝危険箇所〟だった。だが、死亡事故を機に住民と警察が県に働きかけ、無理な横断を防ぐポールを設置。その後事故はゼロとなり、安全な道路へと生まれ変わった。
□最悪の事故発生地
現場の道路は片側2車線。店の東側を流れる川沿いの道路との結束部分では中央分離帯が途切れており、無理な横断をする車が後を絶たなかった。店の前に歩道橋はあるが、道路を横断できる信号は約100~200㍍先と少し離れているため、車の合間をぬって横断を試みる買い物客も多かったという。
約150㍍東に市役所があり、車だけでなく通行人も多い付近では平成24年~28年の5年間で、死亡事故1件、人身事故33件を含む76件の交通事故が発生した。これは県下ワースト3位、管轄する奈良署では最悪の事故件数現場だった。
奈良署は防止策をとりたかったが、横断を防ぐポールを設置するには、地元住民や県土木事務所の同意が必要だった。大宮地区自治連合会長の吉岡正志さん(80)は「『危険だ』という声もあったが、『便利だからそのままにしておいてほしい』という声も根強かった」と明かす。
□ついに死亡事故発生
住民と警察の協議が平行線をたどっていた昨年2月、ついに死亡事故が発生した。道路を横断しようとした歩行者と、車の接触事故だった。
「一刻も早く対策をとらなければ」と、警察は現場でこれまで起きた交通事故について、自治会や地元住民に説明。中央分離帯が途切れた部分が原因だった事故について詳細を聞いた吉岡さんは、「昔から危険だという認識はあったが、事故の数や状況を目の当たりにすると、対策をとるしかないと思った」と、5月には自治会としてポール設置の要望書を県土木事務所に提出。8月には、約40㍍の全区間でポール設置が完了した。
□便利さよりも安全確保
設置から5カ月が経過した現在、付近での交通事故はゼロ。通勤時間帯に「抜け道」として利用していた他府県ナンバーの車もみられなくなった。「この地区は高齢者も子供も多く、便利さよりも安全を確保したいと思った。安全が保たれてよかった」と吉岡さん。奈良署の松田健嗣・交通1課長は「自治会の協力がなければできなかったこと。今後もあらゆる面で綿密な関係を築きたい」と話した。