【祈りの美 ⑤】 清水公照 甕 羅漢之図 「煩悩にかられた人間の姿を重ね合わせて…」
2017年02月1日 産経新聞奈良支局 最新ニュース
昭和50(1975)年、華厳宗管長・東大寺第207世別当に就任した作者は大仏殿昭和大修理(大屋根の瓦の葺き替え工事)のため全国を奔走しました。こうした中、時間を見つけては各地の焼物の産地に立ち寄り、地元の土や釉薬を用いて窯元で焼く作業は楽しみの一つでもありました。
「泥仏」に始まり、地元の陶芸家が制作した器に絵付けをしたり、手びねりによる成形にも挑戦しています。西日本を中心に約100件にものぼる大小さまざまな窯元で制作された作品には各地の焼物の特徴が感じられると同時に、書画で見せる作者独自の世界観も表現されています。
本作は武骨な風貌の羅漢を絶妙なバランスで胴部に配した大甕です。羅漢とは悟りを得た修行者のことですが、作者はしかめ面の羅漢に煩悩にかられた人間の姿を重ね合わせて描き、何ものにもとらわれない悟りの境地を説きました。
成形・焼成した陶芸家の奥田英山は昭和19(1944)年、滋賀県信楽町(現・甲賀市)生まれ。茶陶を中心に制作し、清水公照に師事しました。信楽の土の味を生かした作風に特徴があります。 (奈良県立美術館学芸課 松川綾子)