【鹿角抄(コラム)】だまされたと思って…奈良県立美術館企画展「祈りの美」
奈良県立美術館(奈良市登大路町)で企画展「祈りの美~清水公照・平山郁夫・杉本健吉…」が開催されている。この展覧会、だまされたと思ってみなさんに足を運んでいただきたい。
三者三様の表現世界が楽しめるのだが、特に公照の作品群には心動かされるものがあった。力強く大胆で、どこかユーモアが感じられ、人間的な優しさにあふれている。
公照が東大寺別当を務めていた昭和50年代前半、東大寺大仏殿昭和大修理の資金集めのお付きとして全国を一緒に奔走した上野道善・東大寺長老(77)は「人間関係で苦労して人の気持ち、人間愛を取得した方。厳格さの中に人間的なやさしさがあり、作品に出てきているのが私にはわかる」という。
公照から書を習っていた上野長老からユニークなエピソードを教えてもらった。近鉄の社長、会長を務めたグループ総帥の佐伯勇(1903~1989年)が親しかった公照の書について、ある書家に「むちゃくちゃくずしているのとちゃうのか」と問うたという。確かに公照の書は素人目にはむちゃくちゃにも見える。しかし、その書家は「基本ができた上で、くずしておられる」と即答。佐伯はそれを聞いてさらに公照にほれ込んだという。
「頭も切れた。絵も書も芸術的なセンスがあり、独特の才能があった」と上野長老は太鼓判を押す。百聞は一見にしかず。企画展は3月15日まで開催している。 (野瀬吉信)