【祈りの美 ⑧】杉本健吉 佛頭 色彩抑え、重厚な存在感
2017年02月9日 産経新聞奈良支局 最新ニュース
奈良を愛し、数多くの奈良風景を描いたことで知られる洋画家の杉本健吉は明治38(1905)年、名古屋市で生まれました。旧制愛知県立工業学校図案科を卒業後、図案業に携わるかたわら絵を志し、岸田劉生、梅原龍三郎という日本洋画壇を代表する二人の画家に師事しました。
各種展覧会に出品するなど研鑽を積む中、昭和15年頃から奈良を頻繁に訪れるようになりますが、そのきっかけとなったのが奈良帝室博物館(現在の奈良国立博物館)の展示ケースで、ケースに反射する「光」を何とか捉えようと通うちに次第に奈良の風土に魅せられていったそうです。
本作は昭和12(1937)年に発見されて間もない興福寺の仏頭(旧山田寺講堂本尊・薬師如来像)を描いたもの。当時博物館に展示されていた仏像の中でも作者のお気に入りの一つでした。特徴的な欠損した頭部や長く垂れる耳を、背後の五重の塔との対比によって捉え、灰褐色を主調とした抑えた色彩によって重厚な存在感を巧みに表現しています。 (県立美術館学芸課 松川綾子)