【祈りの美 ⑨】杉本健吉 新薬師寺 香薬師如来立像 「骨皮帖」より スケッチに會津の歌添えて
2017年02月9日 産経新聞奈良支局 最新ニュース
たびたび奈良で制作していた作者は、奈良を訪れるさまざまな文化人と交流しましたが、美術史家で書家、歌人の會津八一(1881~1956年)もその一人です。作者は奈良・大和を詠んだ會津の歌集「鹿鳴集」や「幻想」を愛読し、奈良をスケッチする際は必ず携帯して口ずさみながら各地を回っていたそうです。
二人の交流は會津の歌と杉本の絵からなる歌集「春日野」(昭和29年)で結実することとなり、會津の没後には「大仏讃歌」(昭和42年)、「やまとくにはら」(昭和47年)、「印象」(昭和47年)も出版されています。
作者自身が「骨皮帖」と名付けたスケッチ帖にも、しばしば會津の歌が書き記されています。その1頁である本作では新薬師寺にまつられていた香薬師如来像に「みほとけの うつらまなこに いにしへの やまとくにはら かすみてあるらし」(香薬師のうっとりとした目には古代の大和の国が春の霞にかすんでみえているらしい)という「春日野」所収の歌が添えられています。 (奈良県立美術館学芸課 松川綾子)