【祈りの美 ⑩】杉本健吉 東大寺二月堂修二会(お水取り) 厳かな儀式、臨場感豊かに
2017年02月9日 産経新聞奈良支局 最新ニュース
東大寺の住職・上司海雲(かみつかさ・かいうん、1906~1975年)と親しくなった作者は、東大寺二月堂で毎年行われる伝統行事「修二会」の様子をスケッチする機会にも恵まれました。
本作は修二会の代名詞となっている「お水取り」の一場面を描いたもの。「お水取り」は二月堂の前にある若狭井と呼ばれる井戸からお香水をくみ上げ、二月堂の本尊である十一面観音にささげる儀式のことです。夜半、参拝者たちが見守る中、練行衆たちが石段を下り、若狭井へと向かう様子が描かれています。暗闇にはたいまつの明かりが灯され、雅楽の演奏とともに儀式が進行する厳かな雰囲気を潤墨によって臨場感豊かに表現しています。
洋画家でありながら油絵の具のみならず、墨やクレヨン、色鉛筆や水彩など、対象に応じてさまざまな画材を使い分け、東洋画の持つ気韻生動の美と西洋画の表現技法とが融合した杉本芸術の真骨頂を示すこの時期の墨絵作品に対し、小説家の志賀直哉は「新しい日本画がうまれた」と賛美を送っています。 (奈良県立美術館学芸課 松川綾子) おわり