【鹿角抄(コラム)】 全盲の文化人類学者、広瀬浩二郎さん(49)に学ぶ
「自分の容姿の変化を『見る』ことができないのは、幸せでもあり、不幸でもあると思います」。先日取材した、全盲の文化人類学者で国立民族学博物館(大阪府吹田市)准教授、広瀬浩二郎さん(49)の言葉が印象に残っている。13歳で失明した広瀬さんに、年齢とともに変化していく自身の容姿が、実感として分かるものなのかどうか―と、取材後にメールで送った質問に返ってきた文章の一部だ。
全盲とはどんな世界なのか。想像したとき、記者が思い浮かんだのは、自分の姿形が分からない、つまり、自分が人からどう見られているかが分からない、という不安だった。人の目や評価を気にしがちな性格が透けてみえて嫌気が差したが、広瀬さんからの返信は明るくユーモアに満ち、読みながら吹き出した箇所もあった。
「容姿の変化は、やはり触覚的な印象が中心でしょうか。たとえば『ああ、前髪がだいぶ減ったなあ』とか『顔のしわが増えたなあ』といった感じです」
「容姿の衰えよりも、最近の僕の課題は肥満防止でしょうか。腹が出てきたこと、筋肉が落ちたことなどは触覚で確認すると、時々愕然とさせられます。『これって、ほんとうに俺の腹か…』」
目が見えなくても、容姿の変化は実感として分かるものなんだ―と、考えてみれば当然のことに納得しつつ、それ以上に印象的だったのは、文章全体にただよう広瀬さんの明るさだ。
当然、見えないことによる「幸せ」に限らず、口にしないが人知れない苦悩や「不幸」は多々あっただろう。だが、それを感じさせない陽気さとユーモアに、精神の強さと人間的な魅力を感じる。
広瀬さんの明るさに、人の目や評価なんか気にするな、それで自分の実質が変わるわけではない―と教わったような気がして、少し心が晴れた気がした。 (浜川太一)