【榊莫山と紫舟のシンフォニー⑥】 榊莫山「山河茫々」 書の実用性と造形性が引き裂かれようとしている
2017年04月25日 産経新聞奈良支局 最新ニュース
2曲屏風の大きな紙面いっぱいに「山河茫々」の4文字を書いています。墨の垂れや穂先の割れを気にせず、太い筆を勢いよく動かした、激しい表現の作品です。
漢字の書体には篆・隷・楷・行・草の各書体がありますが、この作品は文字の崩し方が楷と草の中間である行書体で書かれています。
「山河茫々」の「茫々」とは、広々としてはるかな様子、またはぼんやりとしてはっきりしない、先の見通せない様子のことです。榊莫山は講師を務めたNHK趣味講座「書道に親しむ」のテキストの前書きにおいて、東洋の書は長い歴史の中で実用性と造形性を融合させてきたが、コンピューターなどの新しい文字作成手段が出現した現代では書の実用性と造形性が引き裂かれようとしていると述べています。そして、これからの書をどう考えればよいかということこそ重要なテーマであり、これを風景にたとえれば、まさに〝山河茫々〟の野に立っているような気分であるとして、この作品の図版を掲載しています。 (県立美術館学芸課 稲畑ルミ子)