【榊莫山と紫舟のシンフォニー⑬ 】 榊莫山 華厳唯心偈 写経手本、六朝風の楷書で
東大寺大仏殿の昭和大修理(1973~80年)の際に企画された写経勧進のため、別当、上司海雲(1906~75年)から依頼を受けて榊莫山が書いた写経手本です。(写経勧進とは、写経と寄付の形で多くの人に事業への参加を勧めること、別当は寺務の長の役職名です)
唯心偈は華厳経(大方広仏華厳経)の一節で、「一切従心転」(一切は心に従い転ずる)などと説かれ、華厳経をよりどころとする華厳宗の東大寺で大切にされています。
榊はこの写経手本を六朝(中国で3~6世紀に興った6王朝)風の楷書で書いたと述べており(「東大寺の海雲」『大和 千年の路』)、5字20句、計100字の経文を端正に記しています。また、経文の後には「奉祈願東大寺大佛殿昭和大修理成就」(東大寺大仏殿昭和大修理の成就を祈願し奉る)と記し、制作の目的を明らかにしています。
榊は東大寺と関係が深く、僧侶と交流があったほか、この写経手本以外にも写経手本「東大寺般若心経」(本展に出品)、南大門の仁王像(阿形像)へ納入された宝篋印陀羅尼経など4種の経典、「世界遺産 古都奈良の文化財 東大寺」記念碑の文字などを揮毫しました。本展ではその一端を「榊莫山と大和」のコーナーで紹介しています。 (奈良県立美術館学芸課 稲畑ルミ子)