【榊莫山と紫舟のシンフォニー⑭ 】 榊莫山 揚州余光(中国余情) 揚州の歴史・芸術への憧れ
2017年06月12日 産経新聞奈良支局 最新ニュース
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榊莫山は、書道の故郷である中国へ行き、北京、山東省の泰山、孔子の旧跡がある曲阜などを訪れました。中国では風景・古跡を見学し、筆・墨などを調査・購入しました。1960年代中頃から1980年代初め頃のことのようです。その経験から、著書『中国見聞記 書の源流をたずねて』(人文書院1982年)や、画と書の作品「中国余情」シリーズが生まれました。「揚州余光」は「中国余情」シリーズの内の一点です。
揚州市は江蘇省に属し、省都南京の北東に位置します。隋の煬帝らが整備したとされる大運河により発展し、明代以降は塩の集散地として商業・文化が栄えました。清代の乾隆年間(18世紀)に活躍した個性的な8人の画家「揚州八怪」がよく知られており、榊はその内でも特に金農の自由な芸術や妥協のない生き方に惹かれました。
榊は、揚州を訪れた時、屋並みは古色にあふれ、痩西湖の風光に清朝の繁栄が余光を留めているように思ったと『中国見聞記』に記しています。この作品では水辺に葉を茂らせる木や草と、それに埋もれるような建物を描き、揚州の歴史・芸術への憧れと当代の風光に対する感興を表現しています。 (奈良県立美術館学芸課 稲畑ルミ子)