【鹿角抄(コラム)】 「小さな町の商店街にしかないもの」 ※4月入社の新人です
4月に入社し、奈良で生活を始めて1カ月。何か足りないものがあれば、休日に近くのイオンモールについ足が向かう。家具に家電、服、雑貨…と、何でもそろう利便性からか、休日は駐車スペースを探すのも一苦労するほどのにぎわいだ。
一方、取材では小さな町に行く機会もある。先日は、日中もシャッターを下ろしたままの空き店舗が目立つ、いわゆる「シャッター商店街」となっている御所市の御所駅前新地商店街を取材した。地元の商工会などが協力して始めた、空き店舗を活用した期間限定の実験店舗の試みだった。
「昔は通りを横切るのだって一苦労。人があふれかえってたよ。ここに来れば、何でもそろったからね」。商店街で昭和4年創業の精肉店を営む女性(72)は、こう教えてくれた。狭い場所に多くの人が集まれば、自然にコミュニケーションも生まれる。昔の商店街とはモノを売るだけの場所ではなく、地元の人の交流の場としても機能していたのだろう。
別の取材では、宇陀市榛原萩原を訪ねた。一息つこうと小さな喫茶店に立ち寄ったとき、経営する女性と会話する中で、記者が北海道出身だと伝えると、「北海道から出てきてるなんて大変ね。こっちでは私のこと母親だと思っていいから」と明るく話かけ、サービスまでしてくれた。常連のおじさんも会話に加わり、まるで実家に帰ったような温かい気持ちで、コーヒーをいただいた。
みなさんはこの週末、どこへお出かけ予定だろうか。買い物をするなら、ショッピングモールや都会の百貨店が確かに便利で目的にも合致し、最も合理的かもしれない。
でもたまには、小さな町の商店街で買い物や食事をしながら、地元の人たちと会話を楽しんでみるのはいかがだろう。きっと、大型店舗には「売っていないモノ」がそこにあるはずだ。「ここでは何でもそろったからね」。そう語った精肉店の女性の言葉が、頭の中に残っている。 (藤木祥平)