【やまと人巡り】 妖怪は奈良を探る一つのツール 妖怪文化研究家、木下昌美さん(29)
「猫また発祥地?」「県内全域に残る鬼伝承」―。
こんな怪しい見出しで県内に出没する妖怪に次々とスポットを当てている独自の電子新聞がある。その名も「奈良妖怪新聞」(大和政経通信社発行)。執筆する奈良市の妖怪文化研究家、木下昌美さん(29)は「さまざまな妖怪からその土地に暮らしてきた人々の考えや風習、文化が見えてくる。妖怪は奈良を探る一つのツール」という。
県内には「ガゴゼ」や「一本だたら」「砂かけばば」「べとべとさん」などの妖怪の話が伝わる。これまでにあまり知られていない妖怪もおり、隠れた話を掘り起こしている。
奈良妖怪新聞は昨年3月から月1回の発行で、「総集編(壱)」も出版された。資料を調べたり、妖怪の話が伝わる現地を訪ねて地元の人に取材して執筆。怪しく不思議な話が盛りだくさんだ。
上北山村に伝わる「一本だたら」は一本足、一つ目のお化け。「『12月20日は出るので外に出たらいけない』といわれることを聞き、なぜか調べると昔は積雪が危険だったのでそういわれるようになったらしい」。妖怪出没にはその土地ならではの理由があるようだ。
また、猫の妖怪などとされる「猫また」は鎌倉時代の「明月記」に奈良で人を食い殺したという記述があり調べてみたが、どこに伝わる話かわからなかった。
空腹感をもたらす「ヒダル神」は東吉野村ではこの神から守ってくれる「ひだる地蔵」があり、交通安全の地蔵としても信仰されていたといい、「妖怪の話は土地によって変わり、おもしろい」。妖怪文化研究の魅力だという。
福岡県宗像市の出身。子供の頃から怪しい話が好きだった。同志社女子大や奈良女子大大学院で怪異な話が多い「今昔物語集」や「日本霊異記」などの説話文学を研究。当時から「研究者になりたかった」というが修士課程修了後は地元紙の記者に。約3年間務めた後、思いを貫いて妖怪文化研究家として伝承集めに奔走するようになった。
「昔だったらおばあちゃんとかから妖怪の話を聞けたが、今の子はそういうことが少ない。だから掘り起こして伝えたい」
奈良妖怪新聞の創刊から1年以上がたち、読者らが「うちの地域にはこんな話がある」などと声をかけてくれる。「砂かけ妖怪」ゆかりの河合町では「第32回国民文化祭・なら2017」で11月にトークショーに参加予定など、〝妖怪ネタ〟は尽きそうにない。妖怪があしらわれたワンピース姿もすてきだ。 (岩)