【鹿角抄(コラム)】奈良のシカ 「驚かせずにそっと遠くから見守ってほしい」
新人記者として奈良支局に配属されて1カ月。街中のあちこちで遭遇するシカにもようやく慣れ、一日も早く一人前の記者になるべく、日々奮闘している。
大阪の実家では、幼少の頃から犬と鳥に囲まれて育った動物好き。先日、奈良公園にあるシカの保護施設「鹿苑」で、今年初めてシカの赤ちゃんが誕生したと聞き、さっそく取材に訪れた。子ジカは初めこそうずくまっていたが、すぐに元気いっぱいに芝生を駆け出し、愛らしい鳴き声も聞かせてくれた。
それからというもの、休日には時折、奈良公園まで散歩がてら出かけ、鹿せんべいをシカたちに与えては癒やされている。頭を上下しておねだりしてくるシカもいれば、せんべい売り場の横で待機している食いしん坊なシカも。それぞれの個性がうかがえ、見ているだけでも楽しい。
一方で気になっていることがある。鹿せんべいをあげるのをじらし、シカの気を引いてから撮影しようとする外国人観光客が後を絶たないのだ。シカは飼い慣らされたペットではない。じらされれば怒って頭突きをしたり、服を引っ張ってきたりするケースもある。そういう行為をしたばかりに、せっかくの機会が嫌な思い出になってしまうのはもったいない。
県や民間団体「奈良公園のシカ相談室」によると、シカにかまれるなどの被害に遭ったとの通報・相談は昨年度、過去最多の180件も寄せられたという。鹿せんべいの正しい与え方を英語、中国語、日本語で記した看板が先月、公園内の鹿せんべい販売所に設置されたのには、そうした事情がある。
鹿苑によると、出産ラッシュは6月末まで続き、赤ちゃんは7月下旬には奈良公園に解放される。不用意に子ジカに近づけば、わが子を守ろうとする母ジカから攻撃されかねない。奈良の鹿愛護会の獣医、丸子理恵さん(50)は「驚かせずにそっと遠くから見守ってほしい」と訴える。
シカと直接触れ合えるのが奈良公園の魅力。ルールを守った接し方を今一度、心がけたい。 (前原彩希)