【警察学校体験ルポ】5・5キロの盾持ちランニング 腕が震えた
市民の安全を守るため、日夜職務に邁進し、ときには危険な任務にもあたる警察官。彼らはどのようにして捜査に必要な知識や技能を身につけているのか。社会人になって3カ月の新人記者がその現場を知るべく、県警が報道機関向けに実施した県警察学校(奈良市)への「体験入校」に参加した。
午前8時半に集合し、1限目の部屋に移動すると、そこには精悍な顔つきの新人警察官たちが、背筋をただして並んでいた。
同校には、大卒で6カ月間、短大・高卒で10カ月間入校する初任科生82人(男性64人、女性18人)と、警察署で職場実習を終えた初任補修科生35人が在校し、厳しい規律のもとで寮生活を送っている。
体験入校は、事件発生から被害者聴取、容疑者逮捕までをロールプレーイング形式で学ぶ「現場対応訓練」で幕を開けた。スーパーで窃盗(万引)事件が発生したとの想定で、私は初任補修科生とともに、逃走中の男女2人に職務質問する「検索班」に配属された。
「ちょっといいですか」と声をかけて女を呼び止める。だが、二の句が継げない。「あのスーパーで窃盗事件があったのですが」。そう切り出していいのかも分からない。何も知らない振りをしている女に、逮捕の決め手となる「犯人しか知り得ない事実」をうっかりこちらから言ってしまわないか、不安になったのだ。情けないことに何も質問できないまま、持ち物検査を手伝うだけになってしまった。先に自供した男の話との矛盾を突き、女を自白に追い込む初任補修科生の姿が頼もしく見えた。
被害者への事情聴取ならば記者としての経験が少しは生かせるかもしれないと思ったが、職務質問には取材とは異なる会話術が必要なのだと感じた。
× × ×
警察官としての心構えや市民との関わりについて意見発表する「職務倫理教養」を終えた後、昼食を挟んで、最後が「警備実施訓練」だ。重さ約5・5キロジュラルミン製の盾を持ち、1周約200メートルのグラウンドを3周ランニングする。軽々とこなす初任補修科生とは対照的に、私も含め一緒に参加した記者たちは1周目で早々に息が上がった。
走り終えると、教官が投げるボールや水の入ったペットボトルを盾で防ぐ訓練が始まる。悲鳴をあげながら必死で盾を構えた。中高6年間剣道で鍛え、筋力には自信があったが、訓練を終えて盾を下ろすと、ずっと力を込めていた手が小刻みに震えていた。
ここで体験入校は終了だが、初任補修科生は再びグラウンドを走り始めた。「まさかこれからが本番ですか」と尋ねると、教官がにやり。体力の差を思い知らされた。
警察学校では他にも法律や鑑識、逮捕術などさまざまな学習や訓練が行われる。初任補修科生の梅本花蓮さん(20)は「同期がいるから『1人じゃない』と思って乗り切れる。苦しんでいる人の気持ちに寄り添う、優しい警察官になりたい」と話してくれた。
信念を持って、厳しい訓練に耐えた警察官が身近にいてくれるからこそ、私たちが安心して暮らせるのだと実感した1日だった。 (前原彩希)