台風21号、奈良の梨・柿にも影響 好調インバウンドにも影落とす
各地に大きな被害をもたらした台風21号から1週間が過ぎた。けが人や住宅の一部損壊以外にも、県内では強風による農作物被害や、関西国際空港の浸水による観光への影響が広がっている。秋の収穫や行楽シーズンを前に、農家や県経済への影響は必至で、不安の声が上がっている。
■ナシなど大量落果
「収穫が始まり、これからという時期だったのに。強風でばらばらと落ちたナシの実を見るのは情けなかった」。大淀町果樹組合の中殿寛組合長は悔しそうな表情を浮かべた。
県によると、台風21号による農業被害は6日現在のまとめで、約1億6900万円に上る。うち農作物被害は約1億1600万円で、大半が同町のナシや、五條市や下市町のカキだった。
中殿さんによると、「二十世紀梨」や「豊水」が収穫期を迎えていたが、多くの果樹園で3割程度の落果被害が確認されたという。暴風ネットも役に立たず、実が大きく落ちやすいとされる豊水では、5割がだめになった農家もあった。
カキの産地、五條市西吉野町でも出荷直前の「刀根早生」の実が枝ごと折れて落ちたり、11月から収穫予定の「富有柿」の葉が強風でちぎれたりしているのが多数確認された。JAならけん西吉野柿部会の北田哲也部会長は「傷ついた実は贈答用にできないので、加工品などにするしかない」と肩を落とした。
果樹園以外でも、県内各地で200棟以上のビニールハウスが破損し、ホウレンソウなどの野菜が被害を受けた。県は「これだけ全県的な被害は珍しい。農家に対しては何らかの支援策を検討する」としている。
■観光にも打撃
関空の復旧遅れは、訪日外国人客(インバウンド)が好調な奈良にも影を落とす。11日昼ごろに近鉄奈良駅(奈良市)前の東向商店街を訪れると、普段は外国人観光客でごった返しているドラッグストアや飲食店が閑散としていた。商店街で土産物店を営む横田佳世子さんは「5日以降、お客さんが7割くらい減っている。北海道地震も起きて、日本が危ないと思われているのでは。天災だからどうしようもないけれど」と嘆いた。
奈良市観光協会によると、今月1~10日の市内3観光案内所の来館者数は、前年同期比15%減の約2万人と、観光客が確実に減っている。実際、宿泊への影響も顕著で、ホテル日航奈良(同市)では、4日以降11日までに、約200室の予約がキャンセルになった。大半が中国、台湾、香港といったアジアの旅行客という。
中国の国慶節(建国記念日)がある10月は観光の商機だが、関空の完全復旧のめどは立っていない。同ホテルでは旅行会社に、10月予約分のキャンセルの可能性を問い合わせているが、「まだ分からない」との回答ばかりといい、担当者は「秋の観光シーズンの見通しが立たず、こちらも困っている」と話していた。