33歳大輪、奈良の誇り 徳勝龍の父涙「夢のよう」
2020年01月27日 産経新聞奈良支局 最新ニュース
「真っ向勝負の立派な相撲だった」。大相撲初場所千秋楽の26日、徳勝龍(とくしょうりゅう)(33)=本名・青木誠=が見事優勝を勝ち取った瞬間、父の青木順次さん(73)は涙ながらに息子をたたえた。遅咲きの33歳。優勝インタビューで「まだ33歳と思って頑張る」と宣言した姿に、順次
さんは「まだまだやれる」とエールを送った。この日、奈良市役所にパブリックビューイング(PV)の会場が設けられ、約200人が2台のテレビモニターで結びの一番を見守った。そして大関・貴景勝を破って優勝を決めると、会場は「やったー」と大歓声。幕尻の優勝が20年ぶり2人目というだけでなく、奈良県出身力士の優勝は98年ぶりの快挙とあって、地元は大喜び。最前列に陣取った順次さんはその瞬間、顔をくしゃくしゃにし、タオルで顔を覆って感涙し、「大関相手に真っ向勝負の立派な相撲で、よく頑張ってくれた」。
一方、会場の両国国技館(東京都墨田区)には母のえみ子さん(57)が駆けつけており、「ハラハラしたけれど、逆転してくれてうれしい。夢みたい」と涙ながらに話した。
徳勝龍が相撲と出合ったのは小学4年生の頃。知人の勧めでわんぱく相撲に出場した。圧倒的な強さで県代表になったが、全国大会では4回戦敗退。その悔しさから本格的に相撲を始めた。
天理高校柔道部出身という順次さんの影響ですでに柔道を習っていたほか、少年野球のチームにも入っており、「三足のわらじ」だった。だが苦にした様子は全く見せず、野球の練習では夜明け前にグラウンドに姿を見せ、監督に「早く来すぎだ」と怒られたこともあったという。
友達と遊ぶ暇はなかったが、「泣き言や『やめたい』という言葉は聞いたことがない」とえみ子さん。順次さんは、徳勝龍が「左四つ」を得意とすることについて「将来を見据え、柔道では有利な左組みを教えていた。それが下地となったのかも」と話す。
正義感も強かったようで、小学5年生の頃には、下級生をいじめた子を見つけ「そんなことをするな。俺が承知しないぞ」と一喝したというエピソードも。ただ、家族には「相手を思いやる優しさがあるから、勝負の世界で心を鬼にできるか気になっていた」(えみ子さん)という心配もあったという。
ここ2年は十両暮らしが多かった。10場所ぶりに幕内で相撲を取った昨年の夏場所も4勝11敗と大きく負け越し、すぐさま十両に陥落した。しかし、こうした雌伏の時を経て、今回の初場所で賜杯を初めて手にした。順次さんは「夢のような気持ち。けがには気をつけて長く相撲を取ってほしい」と話した。