【未来へつなぐ 狩猟の今】ハンター界に変化の兆し、「ペーパー猟師」課題
2020年02月14日 産経新聞奈良支局 最新ニュース
「小学校教育の段階で、狩猟の必要性を広めてみてはどうか」「狩猟というとまだまだイメージが固い。趣味の延長線上として打ち出していくべきだ」―。
昨年9月、奈良女子大(奈良市)で開かれたイベント「狩猟のいろは」。さまざまな提言を繰り出したのは、狩猟活動とは縁遠い存在であるはずの女子大生だった。
野生鳥獣による深刻な農作物被害、さらにハンターの高齢化―。数々の課題を抱える狩猟の世界にいま、変化の兆しがある。「狩りガール」と呼ばれる女性
県農業水産振興課によると、平成25年度に狩猟免許(網・わな・第1種・第2種の合計)を所持していた10~30代は146人だったが、その後は右肩上がりに増え、30年度は287人となった。一方、女性ハンターの数も年々増えている。24年度に14人だった女性の狩猟免許所持者は、30年度には87人に。全体に占める割合は0・7%から4%に急増した。
女性の免許取得者が増えた背景について、県の担当者は「狩猟をテーマにした漫画の影響に加え、狩りやジビエ料理がメディアで取り上げられ、身近に感じられるようになったのでは」と分析する。鳥獣駆除に役立てる交付金を活用し、講習会の受講費用を補助して免許取得を後押ししている自治体もある。
奈良女子大では28年、ハンティングサークルが発足。学生らは野迫川村でわな猟を実践的に学び、県と連携したイベントでジビエ料理を振る舞っている。現在のメンバーは8人で、中にはわな猟の免許を取得した学生も。同サークルに所属する福井彩季さん(21)は「ジビエ料理などを通し、農作物被害を受けている山村の暮らしや狩猟の必要性にも目を向けてもらえれば」と話す。
県内の免許所持者2163人のうち、60代は約56%(1214人)を占める。ハンターの高齢化は依然として深刻だ。若い世代の免許取得が進んでいるのはいい傾向といえそうだが、手放しでは喜べない。免許所持者が増えても、鳥獣被害の抑止と直結するわけではないからだ。
狩猟ビジネスを全国展開するTSJ(奈良市)社長で、一般社団法人「猟協」の副理事長を務める仲村篤志さん(41)は「免許を取っても、実際に捕獲ができなければ『ペーパー猟師』が増えるだけ」と指摘する。捕獲のためには知識と地道な経験が必要な上、狩猟者登録を受けると税金もかかるだけに、実際に更新し続ける人はさほど多くはないのが実情という。
仲村さんは「狩猟者のステータス向上も必要。行政が捕獲の講座を開くなどして、狩猟者の技術を向上させる仕組みを作ってはどうか」と提案する。
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私たちの生活を陰で支える狩猟の今とこれからを考える。