「幻の大和絣」斑鳩の草木染織作家が復元
2020年04月5日 産経新聞奈良支局 最新ニュース
現在の大和高田市周辺を一大産地として庶民の暮らしに根づき、後継者不足と和装離れで次第に廃れていった「大和絣」。白地に藍染めの柄が浮かび上がる風合いに魅了され、復元に取り組んだ職人がいる。斑鳩町の草木染
織作家、亀山知彦さん(37)。大和郡山市の町家物語館(旧川本家住宅)で3日から始まる作品展を前に「素朴で柔らかな風合いが持ち味。普段着だった時代に思いをはせてもらえれば」と語る。大和絣は幕末から昭和初めにかけて広く流通した綿織物。一時はお伊勢参りの土産物としても喜ばれたという。明治初期には化学染料の導入に伴う品質劣化で評判を落としながらも、のちに県を挙げての取り組みが奏功して復興。1970年代までは百貨店などで取り扱われていたが、いつしか市場から姿を消した。
県立民俗博物館(大和郡山市)の横山浩子主任学芸員によると、生産拠点は現在の大和高田や御所、橿原の各市周辺。県内では現在も靴下や下着の製造など繊維産業が盛んだが、「それらの礎となったのが大和絣といえる」と説明する。
亀山さんは斑鳩町出身。西予市野村シルク博物館(愛媛県)の実習生として染織の全工程を一貫して学び、その後は京都・西陣の手織り工房で5年間修業。昨年1月に地元に戻り、大和絣に出合った。「どこか垢抜けず、ひなびた奈良の風土を思わせる独特の風合い」(亀山さん)に魅了されたという。
もっとも、復元への道のりは平坦ではなかった。大和絣の製作には、織り手側から奥に向かって傾斜をつけた「大和機」が用いられるが、現存するのは同館の展示品のみ。一般的な機織り機では木綿糸がよれやすくなり、柄合わせは一筋縄ではいかなかった。「一反仕上げるのに2カ月はかかる」という骨の折れる作業の末、復元に成功した。
町家物語館で5日まで開かれる作品展では、近くの藍染め体験施設「箱本館 紺屋」で染めた井桁柄の反物やショールなど大和絣3点に加え、これまでに織った作品を一堂に紹介する。開館時間は午前9時~午後5時。観覧無料。問い合わせは町家物語館(0743・52・8008)。