消毒用エタノール「地産地消」進む 酒蔵が手作業で出荷
新型コロナウイルスの感染予防のため、全国的に不足する消毒用エタノールの代替品を酒蔵が出荷し、地元の医療機関などに届ける「地産地消」の動きが県内で広がっている。代替品は日本酒の吟醸酒などに添加されるアルコールの醸造用エタノール。濃度が60~70%台と高く、引火の危険を伴うため、瓶詰めなどの工程は手作業だ。
厚生労働省は4月、消毒用エタノールの需給逼迫を受け、日本酒の吟醸酒などに添加される醸造用エタノールについて、殺菌作用の高い濃度60~83%の範囲内で代替品として用いることを認可。国税庁も今月1日から、「飲用不可」の表示を条件に酒税を免除することを決めた。
こうした動きを受けて今月、奈良市の八木酒造と奈良豊澤酒造、葛城市の梅乃宿酒造、吉野町の北岡本店が相次いで出荷を始めた。
奈良豊澤酒造では、サトウキビを発酵、蒸留させた濃度95度の醸造用エタノールを県外の大手酒造メーカーから仕入れている。
代替品は水で濃度77度に希釈し「エタノール77」と命名。19日に行われた最初の瓶詰め作業では、引火しないよう細心の注意が払われた。
通常は工場内の電動機械で瓶詰めされるが、摩擦熱による引火を防ぐため、屋外に手動の充填機を設置。作業にあたる工場長や杜氏ら5人のうち、充填機のノズルに瓶の口を差し込む2人は、静電気による引火を防ぐビニール製の作業着と手袋を着用した。キャップを締めるのも手作業で、1人が締めた後、もう1人が締まり具合を入念に確認。ラベルを張り、21日に出荷を開始した。
県医療政策局薬務課によると、消毒用エタノールは県内の病院だけで1日150㍑程度が消費される。中森正晃課長は「社会福祉施設などでも手に入りにくい状態が続いており、地元の酒蔵による支援は非常にありがたい」と喜ぶ。
奈良豊澤酒造は500㍉㍑入りの「エタノール77」を、県と奈良市の医療機関に向けて計600本を寄贈。1本1210円で販売を始めた。豊澤孝彦社長は「日本酒メーカーだからできることをやろうと考えた。地元での不足解消と感染予防につながれば」と話している。