廃寺の仏さま 数奇な運命探る「ソムリエの会」小倉さんが書籍刊行
NPО法人「奈良まほろばソムリエの会」の会員、小倉つき子さん(69)が、廃寺となった寺院に祭られていた仏像の現状を探る活動に取り組み、その成果をまとめた「『廃寺のみ仏たちは、今』奈良県東部編」(京阪奈情報教育出版、税別950円)を刊行した。現在安置されている寺院や地区収蔵庫など約カ所を対象としており、貴重な記録になりそうだ。
古代から数々の寺院が建立された県内では、神仏分離令や寺院の衰退で行方知れずとなった仏像もあれば、県内外の寺院や地域で大切に守られている仏像もある。小倉さんはそうした数奇な運命に興味を抱き、平成30年秋から約1年かけて取材。さまざまな事情に翻弄された仏像の「今」に迫った。
「『廃寺のみ仏たちは、今』奈良県東部編」では、各地の廃寺と移された仏像について紹介。国宝仏から秘仏まであり、このうち古代に桜井市に創建され、その後廃寺となった粟原寺から流出したと口伝されている仏像は、長野市の清水寺などに行き着いたとされる。
また、神仏分離令により一帯で唯一残った山添村の薬音寺には、廃寺の仏像が集められ、木造仏像群として村文化財に指定されている。十一面観音菩薩立像など18体が平安時代の一木造りという。
このほか、由緒不明の極楽寺(奈良市)の阿弥陀如来坐像など県文化財3体や、宇陀市西峠区の住民に守られる薬師如来坐像(県文化財)も紹介。仏像がたどった運命に思いをはせることができる。
小倉さんは「取材を通じ、仏さんだけは守ろうという奈良の人たちの信仰心を感じた。だが、山間部では70~80代の人が守っているところが多く、次世代にどう引き継いでいくかが課題となっている」と話しており、今後は奈良盆地編にも取り組む意向だ。