氷室神社「御渡り」58年ぶり復活、ロボット技術で担ぎ手サポート
新型コロナウイルスの影響で多くの祭事が中止にされる中、長らく途絶えていた氷室神社(奈良市)の氏子らによる御渡りが今月1日、58年ぶりに行われた。12人で約400㌔の鳳輦を担ぎ、氷室神社と興福寺南大門跡との間を往復した。担ぎ手は、体力を保てるようにと用意された歩行支援用のアシストスーツを着用。飛沫を防ぐ口覆いをするなど、厳重なコロナ対策下での行幸となった。
永久5(1117)年に悪疫鎮止のために始まったとされる例祭の一環として、御渡りは江戸時代前期には行われていたが、交通事情などから昭和37年に中断した。
1日の御渡りには、餅飯殿町や小西町など32カ町の氏子や近くの住民ら約60人が参加した。それぞれに御旗や鉾、盾などを手に氷室神社前を午前8時前に出発。かけ声はなく、太鼓の音を厳かに響かせ、奈良国立博物館の近くから春日大社西塔跡を経由して、興福寺に至る行程を往復した。
鳳輦は奈良市在住の塗師、樽井宏幸さん(46)の手で今年3月から3度の漆塗りが施され、6月に修復が完了。その後、初めてのお披露目となった。興福寺南大門跡に置かれた御旅所で神事が行われ、大宮守人宮司が「奈良の発展と疫病退散」を祈念した。
コロナ対策では、神社入口に非接触型の検温装置を設置。更衣室は4部屋を用意し、密を避けるために氏子らは時間帯をずらして衣装に着替えた。
鳳輦の担ぎ手は肩にパットを当てて重みによる痛みを軽減。奈良市のロボットベンチャー「ATOUN」(アトウン)が開発したパワードウェア「HIMICO」(ヒミコ)を身に着け、歩行の負担を減らせるように配慮した。同社の藤本弘道社長は「コロナ禍での新常態(ニューノーマル)時代のお祭りといえそう。高齢者の多い地域での神輿の担ぎ手への活用も模索できるのでは」と手応え。奈良市の会社員、岡下浩二さん(33)は「足を意識することがなく、疲れもたまりにくい。鳳輦を担ぐのに集中できた」と話していた。