朝ドラヒロインのモデル・広岡浅子直筆手紙など１万点 橿原市の民家で見つかる
ＮＨＫの連続テレビ小説「あさが来た」のモデルで明治時代に活躍した実業家、広岡浅子直筆の手紙や嫁ぎ先の豪商、加島屋（かじまや）が江戸末期に全国の大名に融資していたことを示す借用書など約１万点が、橿原市内の民家で見つかった。幕末から明治へと移る日本の経済活動を探る貴重な史料となりそうだ。
発見された広岡浅子の関連資料。広岡浅子が出した書面で、「浅」の字が確認できる
先の大戦の戦火を逃れた一級史料
加島屋は「江戸三〇〇藩」と称された全国諸藩の約３分の１と取引があったとされる大阪の豪商。大同生命保険の創業一族でもある広岡家に関する資料はこれまで約２５００点が「大同生命文書」として大阪大学に寄託されているが、今回の発見は点数でこれを上回る。
史料は加島屋の１０代当主、広岡正直（第３代大同生命社長）の長女らが第二次世界大戦末期、大阪市内から橿原市内の親戚宅に疎開する際に持ち出したものだ。後に正直が一部を広岡家に持ち帰ったが、文書や写真など約１万点が残されていた。
史料の分析の依頼を受け、豪商の研究家である大阪大学の宮本又郎名誉教授と神戸大学経済経営研究所の高槻泰郎准教授が今年７月、調査に着手した。
〝あさ〟「引き籠もり、外出できません」
今回、見つかった浅子の手紙は２通ある。
女性の調度品が入れられた箱から、かんざしを包んだ状態で発見された。いずれも、義弟の妻、なつ（夏）宛だった。
年賀状には「初春之御寿何方も おなし御事ニゐ納候」などと新春の挨拶、もう一通の手紙には「時候ニ当られ候て 引籠り居申候夫故 明日ハ失礼致候間」と体調を崩したために外出の約束を取りやめることを詫びる内容がしたためられていた。結びには「浅」の署名が入っていた。
貸し出し金利は藩の信用次第、返済猶予も
大名への融資を示す借用書は、縦長の封筒に融資先の藩名ごとに整理された形で発見された。表に年月と藩名、合計額が書かれているほか、朱色で「写済引合済」（帳簿と照らし合わせて確認済）と記されていた。
高槻准教授は「加島屋と諸藩の取引の実態がわかる資料。不良債権化していた大名の借金を、明治新政府がどれだけ肩代わり返済したかを明らかにできる可能性もある」と話す。
藩ごとに融資額や金利も異なっており、「政治力や藩の資産から、金利を優遇したり返済猶予を行ったり、現代の銀行の企業への貸し出し業務のようなことをしていた」とみている。
東北地方の棚倉藩に「銀十八貫」を年利４％で融資する借用書も見つかり、全国各地の大名と取引を持った加島屋の影響力の大きさを浮き彫りにした。
発見された広岡浅子の関連資料。広岡浅子が出した書面で、「浅」の字が確認できる
債務整理は明治政府の指示
明治政府は明治４年、大名の借金を、廃藩置県によって新たに設置した府県が引き継ぐことを表明。債権者である商人たちに、大名への融資額を調査するよう指示している。
発見された借用書の入った封筒の表書きも明治４年以降で一致していることから、高槻准教授は、加島屋が新政府の通達を機に、藩別に融資額を数え直して帳簿につけたとみている。
浅子は広岡家に嫁いだ後の２０歳のとき、明治維新を迎える。
自伝では「一族の為め重大なる家政の責任を一身に擔（にな）ひ、奮然起つて事業界に身を投じました」と記されており、浅子が明治４年の債務整理に関わった可能性がある。
高槻准教授は「加島屋の奉公人が、融資返済の可能性を期待して、膨大な借用書をきちょうめんに整理した様子がうかがえる」と話している。
浅子の手紙は、年内に大阪企業家ミュージアム（大阪市中央区）で一般公開される予定。借用書の分析成果の一部は、１１月９日に神戸大学の公開講座「豪商たちの近世・近代」で公表する予定だ。
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（関西のニュースは産経ＷＥＳＴ http://www.sankei.com/west/west.html）
