医大生が院内学級で高校生の学習支援 浮かび上がる制度への期待と課題
入院中の子供たちの学習支援のため病院内に設けられる「院内学級」。だが、ほとんどは義務教育の小中学生が対象で、高校生への支援はまだ少ない。そんな中、県立医大付属病院(橿原市)では、同大学の学生サークル「社会医学研究会」による入院中の高校生への学習支援ボランティアが、病院職員とも連携した組織的な支援に広がり始めている。
■生徒の希望に応じて
平日午後5時ごろ。県立医大付属病院の一室に、医大5年生の大西里奈さん(23)がやってきた。訪ねたのは、大部屋に入院している葛城市の高校1年の男子生徒(16)だ。
「今日は何しようか?」
生徒が希望したのは「英語」の勉強。ベッド横に置かれている小さなテレビ台を勉強机代わりに、この日の学習支援が始まった。
大西さんは、医大の学生サークル「社会医学研究会」に所属し、同病院での学習支援活動を取り仕切っている。現在の支援対象は2人の高校生。大西さんを含む6人が、高校生1人を3人態勢で支援している。
方法や学習内容は相手次第。今はほぼ毎日、平日の夕食前に1時間程度、希望内容に応じて実施している。大西さんに勉強をみてもらった生徒は「1対1で分かるまで丁寧に教えてくれる。1人ではとても勉強を続けることはできなかったと思う。今後も続けてほしい」と話した。
■体調に合わせて調整
活動が始まったのは昨年5月。同大小児科学教室の嶋緑倫教授(62)が「患者さんは病室でも1人で懸命に勉強している。学生で学習支援をできないか」と大西さんに提案したことがきっかけだった。
社会医学研究会は、ボランティアや国際交流などの活動に取り組むサークルで、約100人が所属。声をかけると7人が集まりさっそく、付属病院の小児科に入院していた高校1年の男子生徒の学習支援を開始。担当教科を決めて週2~3回、夕食前に行った。
だが、始めてみるとさまざまな課題に直面した。患者の体調に合わせた日程調整や、部員と病院間の連携はすべて一から手探り。また、7人のメンバーが入れ代わり立ち代わり教える方法は教え方にも〝個人差〟があり、進捗状況も毎回確認する必要があった。
生徒が12月に退院し、学習支援は一旦終了。再スタートした今年5月からはこの教訓を生かし、学習内容はその日に患者が希望する内容に。メンバーも3人で1人を受け持つ形にした。メンバー自身の病棟実習も始まり、病院側との連携もスムーズになったという。
■少ない自治体の支援
院内学級は学校教育法に基づき、入院中の児童・生徒を対象に病院内に設置される。厚生労働省によると、平成25年度の調査では全国の小児病棟での設置率は37・8%だが、多くは小中学生が対象だった。
院内学級で学校と同じ教材を使い、正規の教員による授業が受けられる小中学生に比べ、高校生は支援の不十分さが指摘されている。一部の自治体では教員が病室を訪問して教えているが、奈良県ではまだこうした支援はない。嶋教授は「県教委は『義務教育でないから』というが、それは支援をしない理由にならない」と指摘する。
関西学院大学教育学部の丹羽登教授は「学生が病棟実習の合間に個人的に勉強を教えることはあるが、組織的・継続的に取り組んでいるのは奈良県立医大と京大医学部ぐらいでは」と指摘。個人の支援は卒業すれば途絶えてしまうケースがほとんどなのだという。
大西さんは「患者さんとより密接に関わることのできるボランティア」とし、「支援が私たちだけで終わることのないよう、活動の輪を広げていきたい」と力を込めた。(神田啓晴)
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(関西のニュースは産経WEST http://www.sankei.com/west/west.html)