【鹿角抄(コラム)】奈良市の火葬場移転 自治会の新たな問題、鮮明化 市は「話し合いで…」と静観
奈良市の長年の懸案だった火葬場移転問題が、ようやく動き出した。16日の市議会本会議で、移転関連費用8200万円を含む今年度一般会計補正予算案が可決された。市が建設費に当て込んでいる合併特例債は、平成32年度末までの工事完了が条件のため、予算可決はぎりぎりのタイミングだった。だが、行政手続きが前進した一方、地元では住民間の対立が深刻化するなど、新たな問題も表面化している。
奈良市白毫寺町にある「東山霊苑火葬場」は大正5年に開設した。老朽化は深刻で、冷却装置のない炉は1日8件の火葬が限界という。このため、市民の4人に1人は市外の火葬場を利用しているのが現状で、火葬場移転は長年、市の「最重要課題」だった。
だが、3月議会に市が提案した関連費用は、仲川市長が「再議」に付しても議会の承認を得られなかった。これを受け、市は市民説明会や専門家による第三者評価を行い、計画案も修正した。12月議会でようやく承認を得た仲川げん市長は、「取り組みが評価され安心した」と胸をなで下ろした。
だが、事業はこれからが本番となる。しかも、計画地の横井町に隣接する鹿野園町では、計画の賛否をめぐり地元住民の対立が鮮明化している。同町自治会では計画に賛成する自治会長、副会長が役員改選で解任され、反対派住民が新たな自治会長に選ばれた。
解任の正当性を主張する反対派に対し、賛成派は「不当な手段での解任は無効」と対立を深めるなど、コミュニティーの分断は深刻な状況となっている。市は「町内のことなので、話し合いで解決してほしい」と静観の構えだが、市の事業に端を発した住民間の亀裂は、決して浅いものではない。
市は今年度中に都市計画決定を行い、32年度末までの工事完了に向けて事業推進を急ぐ構えだ。議会承認が得られた事業といっても、事業実施にはやはり住民の理解が必要だ。今後の市の対応にも、注目していきたい。 (神田啓晴)