【鹿角抄(コラム)】 東アジア文化都市イベントの〝レガシー〟とは? 問われる今後の取り組み
「古都祝奈良(ことほぐなら)」。みなさんはこの言葉、記憶にあるだろうか。年間を通した日中韓の文化交流イベント「東アジア文化都市2016奈良市」のメーンイベントとして昨年9月3日~10月23日の約2カ月、〝時空を超えたアートの祭典〟と銘打って開催されたイベントのタイトルだ。
事業は継続され、奈良市の平成29年度当初予算案にも「アートプロジェクト事業」として9500万円が計上された。具体的な内容は未定だったが、仲川げん市長は「古い街に現代アートを取り入れることで奈良は創造性、変革性に富んだ街ということをアピールする。レガシーを未来につなぐ」とやる気満々だった。
だが担当課によると、文化交流イベント「東アジア文化都市2016奈良市」の来場者数は昨年3月26日~12月26日の期間中に約126万人。市の観光客数は27年で約1500万人だったことを考えると、寂しすぎる。ある職員は「手を広げすぎて、結局インパクトのあるものを残せなかった。奈良のイメージを刷新できるいいチャンスだったのに」とこぼす。街中にポスターも掲示されたが、来場した市民の22%がイベントを「知らなかった」とアンケートに回答した。「東アジアへの関心が高まったか」という質問には4割以上の市民が「変わらない」か「分からない」と答えている。
イベントを取材しようにも、報道資料が配られるのはいつも開催直前。告知記事の掲載すら難しく、「せっかくいいイベントなのに」と、何度ももどかしい思いをした。担当課も「打ち合わせはぎりぎりまでもつれ込むことが多かった。やれることはやったが…」と、市単独で外国とのイベント共催した経験の不足も挙げた。「だからこそ、一過性の打ち上げ花火で終わりではなく、何かを残していかなくては」とする。
記者自身は、日中韓3カ国の高校生の交流事業などを取材する中、イベントの国際性を実感する場面もあった。だが、9500万円を投じても来場した市民の4割に「関心が高まらなかった」と言わしめたイベントの〝レガシー〟とは、一体何なのか。今後に生かす取り組みは、これから問われる。
(神田啓晴)