【榊莫山と紫舟のシンフォニー⑧】 紫舟 「鯨波動図」 曲線的な平仮名の造形効果
2017年05月11日 産経新聞奈良支局 最新ニュース
鯨が岩にぶつかり、吹き出した潮が岩にかかって、波立つ海へ流れ落ちています。水しぶきがあたりに飛び散り、躍動感を強調しています。作品名「鯨波動図(くじらはどうず)」の「波動」は、波の動きとともに、衝撃で波形に変形した鯨も意味しているようです。
屏風一双の右半分に鯨、左半分に岩と潮を配した大ぶりな構図の画に、力強い筆致で文字を加えています。作者は、鳴門の潮を連想させるような「なみぬねの ぬのぬののぬの なるとほほ なにぬねの ぬのほほほのほほほ なななな ににににに ぬぬぬ ねねね のののののの なにぬねのほほ」という書について、文の意味ではなく曲線的な平仮名の造形的効果を重視したと言っています。また、同じ文字を繰り返すことなどにより、波動を書で表現したと見ることもできるでしょう。
最後に「平成二十五年癸巳清浄明潔 紫舟」と記し、「紫碧舟」と「福神紫碧舟」という文字を刻んだ印を捺しています。平成23年の東日本大震災を念頭に置いて制作したとも作者は述べています。
(県立美術館学芸課 稲畑ルミ子)