【まちの近代化遺産】カフェとして蘇った大正建築 旧名柄郵便局
江戸時代に宿場町として栄えた御所市名柄(ながら)。昭和初期までは約80軒の商店が並んでいたという名柄街道には今も、国の重要文化財に指定されている江戸時代の代官屋敷「中村家住宅」や、江戸時代中期に建てられ、木綿と菜種油の仲買を営んでいた「池口邸」、由緒ある社寺が点在。往時の様子がしのばれる。
名柄の落ち着いた町並みの中にあるカフェを備えた郵便資料館「郵便名柄館~Tegami Café(テガミカフェ)」は、「旧名柄郵便局」の局舎を改修し、今年5月にオープンした。やさしい桜色の外観の建物は、名柄の街に華やかに溶け込み、人のにぎわいを生んでいる。
県教委や御所市によると、旧名柄郵便局は、明治35年に郵便受取所として開設。電報の取り扱いが増えたため36年に郵便電信取受所に、同38年に三等郵便局になった。大正時代は葛城・金剛山の麓に位置する吐田郷(はんだごう)村や葛城村の全域が集配区域で、昭和50年に局舎が移転するまで、地域の郵便局として親しまれていた。
木造平屋建ての局舎は大正2年の建築。だが、郵便局としての役目を終えた後は活用されることなく、荒れたまま放置されていた。約4年前、御所市が包括連携協定を結ぶ畿央大(広陵町)などと、旧局舎を中心とした地域活性化のプロジェクトをスタート。建物はまちのシンボル的存在として、新たに活用されることになった。
市が所有者から土地、建物を借り、国の補助金や寄付金も活用して昨年3月から改修に着手。使える柱などの部材をできるだけ生かし、新たに厨房も作って、郵便資料館とカフェがある「郵便名柄館」に生まれ変わらせた。
運営は地元住民の有志らで組織する一般社団法人「吐田郷地域ネット」に委託。共同代表の竹田政義さん(46)は、「郵便局というのは郵便や電報を扱い、人と人とがつながる場所だった。この場所が人々がつながるふれあいの場になったらいいと思っています」と話す。
資料として展示されているのは、多くが旧名柄郵便局で実際に使われていたもの。同じく共同代表の米田巧さん(45)も、「資料はまるでインテリアのように美しく展示されていますが、貴重なものが多い。愛好家からも注目されているんです」と話す。
桟木で郵便記号をデザインした玄関の扉、円弧を連ねた軒先の飾りなど、細部にまでこだわった造りはそのまま。レトロな公衆電話室も再生された建物はどこか懐かしく、温かい気持ちにさせてくれる。(山本岳夫)
◇ひとくちメモ
郵便名柄館の「テガミカフェ」では、コーヒー(550円)を注文するとオリジナル切手をプレゼント。カフェのテーブルにある引き出しにははがきと文房具が用意されており、その場で書いた手紙を玄関横の丸形ポストに投函できる。吐田米や地元の野菜を使ったランチも人気。営業時間は午前11時~午後4時。火、水曜定休。問い合わせは同館(電0745・60・8386)。
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