墨の魅力伝えたい 呉竹の西村真由美さん
「不便なもの、手間を楽しむものを求める時代がきている」。こう話すのは墨・書道用具の老舗メーカー「呉竹」(奈良市)の取締役部長、西村真由美さんだ。
兵庫県出身で、小学1年から高校3年まで書道を学んだ。国際文化を学ぶため天理大に進学。学生課で呉竹に就職した卒業生の体験談を読み、「子供のころに使っていた墨や墨汁を作っている会社でぜひ働きたいと思った」。新卒の募集はなかったが、総務課に直接電話し自ら門を叩いた。
平成9年入社。主に国際部で、商品開発や海外製品の買い付け、新規顧客の開拓に携わってきた。欧米などを飛び回り、「違った文化に触れることで、1つの商品から想定外の作品が生まれる。それが面白かった」と振り返る。
16年ごろ、米国で人気となっていた「スクラップブッキング」の関連商品を日本でも販売する事業を手掛けた。写真をステッカーやマーカーペンで飾るペーパークラフトで、当時国内での認知度はゼロに等しく「作り方を提案しないと定着しない」と考えた。
そこで、現地の教室に通ってノウハウを習得し、直営店向けの教育プログラム、入門テキストを作成。結果、国内約300店舗が取り入れた。
消費者目線を磨いてきたが、安閑としてはいられない。安価な中国メーカーとの競争が激化する中、「消費者の心をつかむ新商品をどれだけ出せるか」が勝負だという。
新型コロナウイルス下でも「おうち時間」を楽しんでもらおうと開発チームが考えた、インクを自作できる「からっぽペン」は、文具ファンらの心をつかんだ。さらに筆ぺんづくりの技術を生かし、アイライナーをはじめとする化粧品分野に力を入れる。
そんな中、改めて考えるのは、社の原点でもある墨の可能性。「たとえば硯で墨をすることで、精神が落ち着く。これも墨が持つ魅力。商品を通して墨の多様な価値を伝えていければ」