日韓考古学の懸け橋に 橿考研が若手研究者の交換派遣を再開
橿原市の県立橿原考古学研究所(橿考研)で、韓国の若手研究者2人が、古代日本と朝鮮半島の関係などをテーマに研究に取り組んでいる。橿考研と韓国の大学や研究機関とは20年ほど前から研究員の交換派遣を行っていたが、新型コロナウイルス禍で中断し4年ぶりに研究交流が再開。幅広い視野をもつ人材育成と両国の懸け橋へ期待がかかる。
来日しているのは、韓国国立文化財研究院の学芸研究士、イ・チョロンさん(38)と、ソウル大学校人文大学大学院国史学科の崔瑛恩さん(28)。イさんは交換派遣で1月中旬から3月末まで、崔さんは交換派遣とは別に1月末に来日して今月22日まで滞在し、それぞれ研究に取り組んでいる。
2人はもともと古代の日本に関心があり、高校・大学生のころから韓国で日本語を学び、橿考研の研究員とは考古学の専門用語もまじえて会話をしている。
イさんは、日本の須恵器と関係が深い朝鮮半島南部・伽耶地域の土器研究とともに、韓国国内の遺跡情報をデジタルデータ化するプロジェクトに取り組んでおり、日本の考古学分野のデジタル技術などを学ぶために来日した。「遺跡のデータを集積し、誰もが簡単にアクセスできるシステムの構築を進めている。日本の研究機関の取り組みを吸収したい」と意欲を見せる。
一方の崔さんは、韓国南西部に集中する前方後円墳を研究。日本の前方後円墳と比較する上で、奈良県内の古墳を数多く発掘する橿考研に滞在している。
2人は、箸墓古墳(奈良県桜井市)や応神天皇陵古墳(大阪府羽曳野市)などヤマト王権を代表する古墳に加え、和歌山県や兵庫県の古墳も精力的に歩いた。崔さんは「典型的な前方後円墳だけでなく、地方ならではの特色ある古墳を見て勉強になった」と話す。
2人の滞在期間が重なったのは偶然で、イさんは「崔さんが来てくれてから遺跡に行くのも一緒なので、議論をしながら楽しく学べた」。崔さんも「地元の研究者ら多くの人と出会えて貴重な経験になった」と手応えを感じている。
交換派遣は渡航制限などが解かれたことで再開し、橿考研からは1~5月まで代の若手研究者が韓国に派遣されている。橿考研の川上洋一副所長は「古代の中心だった奈良で発掘・研究をするには、朝鮮半島や大陸の遺跡を直接見ることが重要。韓国からも招くことで交流の輪が広がり、対面で学びあうことの意義を改めて感じた」と話した。