三重から東大寺へ 「お水取り」の松明を運ぶ列車旅
近畿日本鉄道は12日、東大寺二月堂の修二会(お水取り)で使われる松明を運ぶ列車に同乗するツアーを初開催した。参加者たちは、松明が赤目口駅(三重県名張市)から近鉄奈良駅(奈良市)まで40㌔近くの距離を列車で運ばれる様子を見届けた後、二月堂まで松明を担ぐなどして、春の伝統行事を体感した。
名張市の極楽寺は毎年、東大寺に松明を調進しており、地元の伊賀一ノ井松明講の講員らがヒノキを伐採して作る。昭和8年から62年までは列車で運搬していたが、翌63年からは徒歩と車で三重・奈良県境の笠間峠を越えて東大寺まで運んでいた。
ツアーは、講員らが「お水取りの松明が名張から運ばれていることをもっと多くの人に知ってもらいたい」と近鉄に提案して初めて実現。関西近郊や福岡県から45組65人が参加した。
この日午前8時半ごろ、赤目口駅で出発式が行われ、駆けつけた三重県の一見勝之知事や近鉄の原恭社長らが見守る中、講員らが同駅から近鉄奈良駅まで直通で結ぶ臨時貸し切り列車に松明5荷を積み込んだ。車内では、参加者らが極楽寺の中川拓真住職による松明調進行事の歴史解説を楽しんだ。
一行は午前10時40分ごろ、近鉄奈良駅に到着。降りしきる雨の中、近畿大学工業高等専門学校(名張市)のサッカー部員らが、希望する参加者らと交代で重さ約32㌔の松明を担ぎ、東大寺二月堂まで約1.5㌔の道のりを歩いた。
大阪市の会社員、梶野耕司さん(63)はずぶぬれになりながら松明を担ぎ、「肩にずっしりと食い込みますね。三重から幾度も峠を越えて東大寺まで運ばれていたことを知って感慨深い」と話した。伊賀一ノ井松明講の森本芳文講長(73)は「ツアーをきっかけに多くの人に、松明講の取り組みを知ってもらいたい」と期待を込めた。
今回運ばれた松明は1年間保管され、来年3月の修二会で後半に行われる火の行法「達陀」で使われる。(木村郁子)