「手漉き和紙を後世に伝えたい」 森の名手・名人、吉野の福西正行さん
「日本の伝統文化である手漉(す)き和紙の技術を後世に伝えたい」。チャプ、チャプ…と、規則正しい音を立てながら紙を漉く手を止めることなくそう語るのは、福西和紙本舗(吉野町)6代目の福西正行さん(54)だ。文化財の書画修復などに欠かせない表具用手漉和紙「宇陀紙」を江戸時代から続く伝統的な技法で作り続け、選定保存技術保持者、さらには「森の名手・名人」にも認定された。「吉野の和紙の良さを伝え続けたい」と語る。
福西さんの作業場があるのは、吉野川の清流を望む急斜面。原料の楮(こうぞ)づくりから伐採、天日乾燥…と、48もある工程をすべて手作業で行う手法は、江戸時代から代々受け継がれてきた伝統の技だ。「紙漉きで1番大事なのが水。だから、宇陀紙は吉野以外では作れない」と語る。
紙漉き職人は「30年でやっと一人前」と言われる。福西さんは大学卒業後すぐに家業を継いだが、最初の10年間は下ごしらえや、楮の繊維を柔らかくきめ細やかにするための「手打ち」作業を先代の父・弘行さんからひたすら学ぶ日々だった。
宇陀紙は自然な白さが特徴で、収縮が少なく、防虫効果もある。原料に使う川上村産の白土がもつ自然の力だ。掛け軸の裏打ちや、国宝の修復にも使われる高級品で、伝統の技が産み出す高い品質と耐久性の強さは海外でも高く評価されている。
修業を重ね、やっと紙を漉く簀桁を持てるようになっても、「紙の厚さを一定にするのは至難の業」という。作業が行われるのは厳寒期だが、漉き舟の中に入れるのは山から流れる冷たい天然水。だが、福西さんは「楮も和紙を漉く水も白土も、全てが森と山の恵み。吉野の自然には感謝の気持ちしかない」と話す。
昨年8月に弘行さんが84歳で他界。それから1年余りで父と同じ選定保存技術保持者になった福西さんは、伝統技術を後世に伝えようと、オフシーズンの夏場も「紙漉き体験」を受け入れ、自ら手ほどきする。地元の小中学校の卒業証書は、福西さんが子供たちに指導し、卒業生自らで和紙から作り上げている。
先月、国土緑化推進機構の「森の名手・名人」の認定証を受け取った福西さん。「自分で6代目であり、1人で受賞したのではない」と脈々と受け継がれた伝統の技とそれを支えた人たちに感謝の気持ちを表し、「今後も精進し、後継者育成に努めたい」と力を込めた。
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