平均78歳の劇団、本格デビュー 盲養護老人ホーム入所者が12月に公演
目の不自由な高齢者が暮らす高取町の盲養護老人ホーム「慈母園」の入所者たちが劇団を立ち上げ、話題を呼んでいる。3年前から練習を積み重ね、ときには地域の老人ホームへ〝出張公演〟も。12月5日には地元のホールで本格的な公演デビューを果たす予定で、入所者やスタッフは本番に向け、熱のこもった練習に取り組んでいる。(有川真理)
「もう少し近づいて」「大丈夫。うまくできてるやん」。11月27日午後、園の広間では劇団「愛園座」のメンバーと職員4人が、初のホールでの公演に向けた通し稽古を行っていた。最初は硬さもあったが、次第に熱を帯びていった。
愛園座は平成24年春、職員の上平静代さん(65)が「利用者に何か打ち込めるものを持ってほしい」と提案。現在は男性1人、女性7人がメンバーとして在籍する。平均年齢78歳で、弱視の人もいるがほとんどが全盲だ。そのため舞台上でぶつからないよう立ち位置や動きを職員が「黒子」となり誘導する。
台本は上平さんが時代劇や落語をもとに執筆。ただし、メンバーは読めないため、せりふは役ごとに職員がテープに吹き込む。衣装や小道具、かつらも職員の手作り。
今回披露する演目は、落語で親しまれている「転失気」。「おなら」を意味する「転失気」という言葉を知らなかった和尚が、医者の前で知ったかぶりをするが…というユーモラスな話で、「観客にどれだけ笑ってもらえるかが腕の見せ」どころ(上平さん)だ。
軽妙なせりふ回しが求められるが、小僧役の喜田治子さん(77)は声の強弱で感情を表現し、身ぶり手ぶりも交えて表情豊かに熱演。練習を終えると「緊張した。本番は大きな舞台だし、落ち着いて演じたい」と笑顔を見せた。和尚役の吉田正行さん(80)は、「いつも成功するイメージトレーニングをしている。大成功して愛園座の名前を知ってもらいたい」と意気込む。
約1カ月前から、テープに吹き込まれたせりふを繰り返し聴いて覚え、中には寝る間を惜しみ、布団の中でテープを聴くメンバーも。それぞれ自主練習を積み重ねて、普段は月に2、3回の合同練習が、本番を控えた今では週に2、3回に増えた。河村冨美子さん(83)は「劇団は自分の生きがい。生活に張りが出て楽しい。練習の成果を出したい」と力を込める。
12月5日に高取町リベルテホールで行われる公演は、「ならボランティアフェスタ」のイベントの一つとして行われる。同園施設長の喜多忍さん(59)は「人一倍の努力をして外部ホールで公演ができるまでになったことに感動している。見る方に元気を発信したい」と話す。
厚生労働省によると、盲養護老人ホームは全国で約50施設ある。NPO法人全国盲老人福祉施設連絡協議会(本部・奈良県)によると、その中で劇団を結成し活動しているのは慈母園など2施設のみという。喜多さんは「視覚障害者もここまでできるんだということを見せて、ふさぎ込みがちな高齢者を励ましていきたい」と話している。
■盲養護老人ホーム 視覚や聴覚に障害のある入所者が定員の7割を超える養護老人ホーム。視覚障害のある高齢者が自立した生活を送れるよう、点字や歩行訓練指導など、専門的なプログラムを提供する。主に65歳以上で、自宅での生活が困難な人が入所する。
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