競輪人気復活の兆し ネット販売が牽引 課題はファンの高齢化
厳しい経営が続く公営競輪場に、回復の兆しが見えている。平成26年度の全国の競輪場の売上高は6159億円で、23年ぶりに増加に転換、27年度の売り上げも前年度を上回るペースだ。景気が回復傾向の中、夜間のレース開催など業界全体の取り組みや好調なインターネット販売が〝追い風〟とされる。ただ、ファンの高齢化は進んでおり、若年層の新規ファン獲得やイメージアップが急務になっている。(有川真理)
■撤退か存続か
「いけ!力入れんかい!」
秋の日曜日。奈良市の奈良県営競輪場で行われたレースではヤジや声援が飛び交っていた。だが、スタンドは空席が目立ち、観客は60~70代とみられる高齢男性がほとんどだった。
昭和25年に開業した県営競輪場は長年県財政を支えてきたが、バブル崩壊後売り上げは低迷。撤退か存続かを迫られていた。
しかし、26年度からほとんどの運営を外部委託して人件費を大幅に削減。イベント開催にも力を入れたところ累積赤字は解消し、27年度以降の収支見通しも黒字になった。
9月末、県は当面の存続を決めた。
■赤字ほぼ解消
公営競輪場を管轄する経済産業省によると、25年度以降、赤字の競輪場は徐々に減少。26年度全体の売上高は23年ぶりに増加に転じ、赤字の競輪場はほぼ解消される見込みだという。
来場者は減り続けているが、同省担当者は「インターネットによる車券購入が増えているのが要因」とする。26年度、主にネット販売による車券売り上げは対前年度比で3・9%増加。全体の23%を占め、提携するネットバンク銀行も増えた。
インターネット販売の効果はほかの公営ギャンブルでも顕著だ。地方競馬全国協会(東京)によると、全国約20の競馬場と、約80の場外発売所を運営している地方競馬では、27年1~10月、主にインターネットによる馬券販売は前年同期と比べ約22%増え、約1889億円に上った。管轄する農林水産省の担当者は「わざわざ競馬場に足を運ばなくても馬券を購入できるので利用する人が多い」と話す。
■「景気に左右」
業界としてもあの手この手でテコ入れを図っている。午後9時から午後11時半までレースを開催する「ミッドナイト競輪」の開催日数を26年度は前年度の倍となる133日に拡大。車券はネット販売のみだが、売り上げは41億から120億円に跳ね上がった。このほか24年7月から女性の競輪選手によるレース「ガールズケイリン」をスタートさせた。
「今後、車券の買い方の初心者講習やインターネット販売を強化するなど若者のファンを開拓していきたい」と、公益社団法人「全国競輪施行者協議会」(東京)の担当者は意気込む。
一方、スポーツマネジメントが専門の早稲田大学スポーツ科学学術院の松岡宏高教授はこうした現状について、「景気に左右された面も大きく、競輪人気が戻ったわけではない」とクギを刺す。
その上で、「自転車教室やトレーニングジムの一般利用、スタンドを芝生にして開放するなど『地元のスポーツ施設』として整備し、新たな役割を担えば存続の価値は上がるのでは」と話している。
【公営競輪】 戦後、地方財政への貢献を目的に地方自治体などが主催して実施。競輪場は現在全国に43カ所あり、うち17カ所は民間委託で運営。基本的に9人の選手が1周333~500メートルのトラックを6~4周して着順を競う。毎年12月に開催される競輪界最高峰のレース「グランプリ」を目指し、選手のレベルに応じて5つのグレードに格付けされたレースが各地で開催されている。公営ギャンブルは他に競馬、競艇、オートレースがある。
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(関西のニュースは産経WEST http://www.sankei.com/west/west.html)