未来の奈良はどんなまち? 荒井正吾知事に聞く
今春の知事選で3選を果たした荒井正吾知事。人口減少、地域活性化、産業・観光振興、子育て支援、防災…。県が抱える課題は多岐にわたる。画一的ではなく、実効性ある〝奈良の処方箋〟をどう作っていくのか、県が果たすべき役割は大きい。今年も残りわずか。新たな平成28年の幕開けに向けて「3期目の集大成」を迎える荒井知事に、課題への取り組みや目指す未来の奈良の姿を聞いた。(聞き手 有川真理、浜川太一)
――2020(平成32)年の東京五輪を見据え、各地で外国人観光客の争奪戦となっている。県は何を重視した戦略をたてるか
「奈良は観光資源はたくさんあるが、宿泊客は全国最下位に近い特異な状況が続いていた。『大仏商法』といわれるように官民がさぼっていたからだ。とことんサービスしないと観光客はリピーターになってくれない。後れを取り戻すべくサービスの質をよくしたい。県として手をつくし、『一泡ふかせたい』という気概でやる」
--急増する外国人観光客への対応として今年7月には観光案内コーナーなどを備える「県猿沢イン」もプレオープンした
「奈良町界隈を外国人観光客の『受け皿の町』にしたい。県猿沢インはもうすぐ(宿泊スペースを備えて)全面開業するが、ずいぶんにぎわっている」
――県営プール跡地(奈良市)では高級ホテル建設計画が進んでいる
「奈良のにぎわい拠点づくりの核となるもので、今のところもくろみ通り、順調だ。大宮通り活性化プロジェクトの一環で、これまでの『東大寺大仏殿を回ってさっと帰る』ようなスタイルから変化させる」
--一方で、大阪などではマンションの空き室に泊まる「民泊」も大盛況だ
「民泊は安全な品質保証がないといけない。火事や感染症などの問題もある。よい部屋を貸すのはいいが、危ない部屋を貸すのはだめ。そういう仕組みがいる。民泊をやるならよい部屋を貸し、定期報告をちゃんとしてもらわないと」
--県は今のところ民泊が可能になる国の特区対象ではない
「特区だからできるというのも変だ。特区でやるというのは『お目こぼし』みたいな発想。ちゃんとどこでも通用するような民泊の基準を、国はつくらないといけない」
--県の人口は減り続けている。打開策は
「一番深刻なのは若者の流出だ。仕事の場がないので若者が出ていってしまう。地方で働く場をつくるのが『1丁目1番地』で、最大の眼目だ。〝脱ベッドタウン〟という県の地方創生の目標とも重なる。奈良は子供を育てやすいうえに教育環境がよいが、仕事がないと、(子供は)卒業するとどこかに行ってしまう。『大阪に勤めればいい』という見方もあるかもしれないが、大阪の経済力が落ちてくれば県民の仕事もなくなる」
--県内にはあまり知られていないが、元気で個性的な中小企業も多い
「奈良で創業され、りっぱに続いている会社もたくさんある。そういう小さくても強靱な企業が奈良に結集してくれれば」
企業の呼び込みに対して特別な支援は
「産業に特化していろんな支援を作っている。奈良は『進出したい』という企業が割と多いが、土地がない。物流環境はよくなっているから、もう少しだ。IT関連会社の呼び込みも立地環境の整備で遅れがある。今必死で取り戻そうとしている。企業誘致とともに、工業ゾーンの造成も一生懸命にやっている」
--確かに、工業用地の少なさは課題だ
「これまでは住宅一辺倒だった。ベッドタウンの勢いで。新たな都市計画を作らないといけないと思う」
--知事にとって「総仕上げ」と位置づける3期目だが、これからどんな奈良にしたいのか
「進展が著しいのが、県と市町村が連携して行政の効率化を図る『奈良モデル』の取り組みだ。県が助けるから一緒にやろうよというのが奈良モデルの基本。やっと弾みがついてきた。これから地域包括ケアシステムなど市町村と一緒にまちづくりの進め方を勉強し、奈良のまちをよくしていく。今までリニューアルされていないまちがリニューアルしていくのはすごいこと。県が本腰を入れて市町村を助けているところはめったにない。ベッドタウンだけじゃいけない。地域の経済力をつけていきたい」
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(関西のニュースは産経WEST http://www.sankei.com/west/west.html)