【奈良から世界へ】(6完)スマホ分野で世界一の技術 FUK
従業員わずか30人だが、スマートフォンのパネル製品で世界一の技術を持つのが、御所市にある「FUK」だ。「リスクをとって新しいことに挑戦しないとつまらない」という植村光生社長(50)の探求心が、大企業に負けない技術を生み出した。
植村社長は元シャープの技術者。液晶テレビの初期から製品開発に携わり、亀山工場(三重県亀山市)建設にも関わった。「自由に新しいものを作りたい」と平成15年に独立後は液晶パネルの研磨洗浄装置の製造販売を手掛け、業績は順調。だが、リーマンショックのあおりで突然受注ゼロとなり、成長著しいスマホ分野に目を付けた。
スマホはガラス製の液晶パネルの裏側にタッチパネルを貼り合わせ、指での軽快な操作を可能にしている。この貼り合わせは気泡が生じないように真空で行われていたが、生産効率が悪いため、約2割が不良品になる。良品率を上げる方法はないかと四六時中ガラスパネルを触っていたとき、「意外に反らしても割れないことに気づいた」。
そこからが早かった。「反らせるなら保護シートを貼るときと同じ要領で、端からローラーで貼り合わせればいい」と、業界の常識を覆す発想で2カ月後の21年5月には実験機が完成。年内には世界で初めて、大気中でパネルを貼り合わせる「大気BEND方式」装置の製品化にこぎ着けた。
製造コストは削減され、しかも良品率は脅威の99%。だが、真空方式が常識の業界になかなか浸透せず、一時は会社の存続すら危ぶまれた。それでも、「常に先を読んで必要とされるものを作らなければ、生き残れない」と、大気BEND方式を応用した新商品を次々開発。業界大手が下請けにFUK製品を推奨するほどの信頼を得た。
「今ない技術を常に求めていけば、世界とも戦える」。挑戦が新製品開発の原動力だ。(桑島浩任)
◆ひとこと 「やらずに倒れるよりやって倒れる」
「小さな会社だから1度の失敗でピンチになるし、良いものを開発しても売れないことだってある。それでも『やらずに倒れるよりやって倒れる』がモットー。常に先を行くことを考えているので、リスクなんて気にしていられない」(植村光生社長)
■(株)FUK(御所市室1186の12)
平成15年、液晶パネルの研磨洗浄装置の製造販売業として御所市で創業。リーマンショックで20年には倒産の危機に陥るが、スマホの液晶パネルとタッチパネルを大気中で貼り合わせる世界初の技術「大気BEND方式」の装置を開発。技術を応用し、電子黒板などの大型液晶用の装置や曲面にも貼れる装置などの新製品を開発している。問い合わせは同社(☎0745・63・0101)。
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