日常に溶け込む、無色透明の自然な響き 12面体スピーカーの魅力
奈良市に12面体のオリジナルスピーカーで音楽を聴くことができる視聴スペース「sonihouse(ソニハウス)」がある。ただスピーカーを販売するだけでなく、「日常と音楽」をテーマに音楽との関わり方、楽しみ方を提案するちょっと変わった空間だ。奈良市のふるさと納税の返礼品にも採用され、「奈良で作られる他にないスピーカー」として、ひそかに人気を集めている。
■通常は特殊用途に利用
音楽鑑賞用のスピーカーは、特定の方向にのみ音を発生させる「指向性スピーカー」が一般的。視聴距離や角度が限定されるが、迫力あるクリアな音を再現しやすいという利点がある。
一方、sonihouseの12面体スピーカー「scenery(シナリー)」は、12面全体から音が出る無指向性スピーカー。多面体の無指向性スピーカーは音が不明瞭になりやすいため、通常は音楽ホールの音響測定など特殊用途に使われ、音楽鑑賞には使われていなかった。
シナリーは高音の出る面と低音の面を平行に配置させ、無指向性スピーカーの〝欠点〟を改善。どの位置からも自然なやさしい音を聴けるという。開発者でsonihouseを主宰する鶴林万平さん(40)は「自然の音は本来、一点から四方八方に広がる無指向性のもの。スピーカーから聞こえる音は本来の音ではないのではないかという疑問が昔からあった」と話す。自分が求める音を形にしたのがシナリーだった。
■8年かけて完成
鶴林さんが12面体スピーカーの開発を始めたのは平成16年。技術面で詳しかったわけではないが、「理想のスピーカーがないなら、自分で作るしかない」と、試行錯誤で開発をスタート。県内の音響会社に就職して技術を学び、19年にsonihouseを設立した。
当初は12面体スピーカーを使った音楽ライブと食事を提供するイベント「家宴」の定期開催が目的で、販売するつもりはなかった。転機となったのはファッションブランド「ミナ・ペルホネン」設立者のデザイナー、皆川明さんとの出会い。「店で使うためにスピーカーを作ってほしい」と依頼されたのが23年の夏。そのとき「材料は桜の木がいい」と言われ、「扱いやすい素材で妥協していた自分に気づいた」という。桜の木を使っての製作も試行錯誤だったが、半年後に完成。そこから、販売が始まった。
■不思議な空間
設計・販売も手がけるが、sonihouseはあくまでも視聴スペース。3階建ての店舗兼住宅の2階部分に厚さ45センチの吸音材を張り、テーブルとイス、必要最低限の音響機器のみが置かれた空間だ。鶴林さんは「食事や家族だんらんの場に自然に音楽があるようなトータルの空間を提案したい」と話す。
そんな空間で聴く音は、「ただそこにある」としか言いようがない無色透明な響き。音楽は会話を全く邪魔せず、しかも会話中に音が自然に耳に入ってくるという不思議な空間だった。
鶴林さんは「初めて聴いたお客さんは拍子抜けすることが多い」と笑うが、シナリーは世界的な音楽家、坂本龍一さんのライブで使われるなど、知る人ぞ知るスピーカーとなっている。ペアで38万4千円~と高価だが予約は次第に増え、現在は3カ月待ちの状態という。
まずは聴いてみてほしい。新しい音楽とのつきあい方を知るきっかけになるかもしれない。sonihouseのホームページはhttp://www.sonihouse.net/
(桑島浩任)
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