【まちの近代化遺産】明治の和風〝迎賓館〟 菊水楼
明治24年に創業し、奈良の和風迎賓館として政財界や文化人に親しまれてきた老舗料亭「菊水楼」(奈良市)。明治維新以降の「廃仏毀釈」で撤去された寺院の古材や良質な木材を取り入れ、今では再現が難しいといわれるほど意匠を凝らした建物が特徴的だ。正門に一歩足を踏み入れると、120年以上守られ、受け継がれてきた建物の風格や美しさが感じられる。
「修理改修はしてきているが、基本的には明治期のまま。良質な材質で、少々の揺れや雨風には耐えてきました。年代を経ることに味わいが増しています」
伊東肇総支配人(74)はこうほほえむ。開業当時からある正門をくぐると、正面に建つのが明治34年に建築された本館だ。木造3階建ての重厚な入り母屋造り。3階には広々とした110畳の大広間があり、会食や宴会、行事に使われてきた。
明治24年に建てられた旧本館も木造2階建ての入り母屋造りで、和風建築の意匠が至るところに見られる。2階には四方に高欄が設けられ、ガラス戸が備え付けられている。部屋には寺の塔頭に用いられていた豪華な部材が転用されているほか、菊の紋を大きくあしらった手すりも見ものだ。
菊水楼は、明治期には「菊水ホテル」と名乗っていた時期もあり、外国人向けにベッドが置けるよう和洋折衷の部屋もあったという。寺院の古木を使った趣向を凝らした飾りや絵画、古美術品なども並べられ、丸窓や花の形をした窓などさまざまな形の窓があるのも魅力的だ。部屋の内装からは、当時の奈良における高級旅館、和風迎賓館としての姿が脈々と伝わってくる。
これまでに皇族の方をはじめ、多くの政財界や文化人をもてなしてきた菊水楼は、近代日本を代表する和風建築として愛され、守られてきた。今は料亭やレストランとして広く親しまれているほか、約2年ほど前からは結婚披露宴にも対応できるように改装。歴史と伝統を感じさせる建物は、「新たな門出を祝うのにふさわしい」と人気を集めているという。来年の予約はすでに200組程度あるといい、「こんなに申し込みがあるとは驚きました」と伊東さん。
館内を歩くと、漂う古き良き時代の空気に時間が止まったかのような感覚に陥る。伊東さんは「古いものには伝統と歴史、そして新しい発見もある。ぜひ1度、この空気を感じてほしい」と話している。(有川真理)
【ひとくちメモ】
明治期の趣をそのまま残す菊水楼(奈良市高畑町1130)は、国の登録有形文化財にも指定されている。現在は料亭▽和風レストラン、和風宴会▽洋食レストラン、洋食宴会▽結婚式-を運営。それぞれのレストランでは、季節の旬の食材を生かした料理が気軽に楽しめる。問い合わせは菊水楼(電0742・23・2001)。
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