中秋の名月 27日、猿沢池で「采女祭」 優雅な管絃船の共演も
古都・奈良でお月見の名所として有名なのはやはり猿沢池だろう。毎年、中秋の名月の夜(今年は9月27日)に「采女(うねめ)祭」が開かれ、優雅な管絃船が浮かぶ。興福寺五重塔とともに絵はがきでもおなじみだが、実はこの池、さまざまな伝説と謎に満ちている。同祭で花扇が手向けられ鎮魂される采 女(女官)、さらに池に住んでいたという龍は・・・。
奈良時代に造られ、「澄まず濁らず」といわれる不思議な猿沢池。五重塔を眺めながら周囲を歩くのもいいが、西北にある小さなお社に目を遣ろう。春日大社末社の采女神社で、采女祭は例祭なのだが、この社、何かおかしい。鳥居に背を向けてたっているのだ。そのわけは「ならの帝に仕えた采女が帝の寵愛が衰えたのを嘆き、入水した」(平安時代の『大和物語』)という能「采女」にもなった伝承。そんな 池を見るにしのびないと社は後ろ向きになったという。
「わぎもこが寝くたれ髪を猿沢の池の玉藻と見るぞ悲しき」という柿本人麻呂の伝承歌 は采女(わぎもこ)の乱れた黒髪と玉藻が重なり、喪失感とともに妖艶な雰囲気も漂う。能「采女」では彼女の姿について長く艶やかな髪をカワセミの羽に、美 しい唇を赤い果実に例えるなど、ベタ褒めだ。采女は地方豪族らが宮中に出仕させた美女といい、天皇らの身の回りの世話をした。近づけない存在だけに世の男 性たちの憧れの的だったようだ。
さて、猿沢池では龍の伝説も興味深い。鎌倉時代の「古事談」によると、住んでいた龍神が采女の身投げで水が穢(けが)れたために春日山へ、ここも不 浄となったので室生(奈良県宇陀市)へ移ったという。これは興福寺の勢力拡大を示すとされるが、猿沢池には雨を降らす神として信仰された龍の話がさらに伝わる。
鎌倉時代の「宇治拾遺物語」では、恵印という僧が「池より龍が昇る」という嘘の札をたてたところ大勢の人が集まり、本人もそう思い 込んでしまうのだが、龍は現れずじまい…。芥川龍之介はこれをもとにした短編小説「龍」で本当に龍を天に昇らせたからおもしろい。奈良の古池は実にネタが 尽きないのだ。(岩口利一)
27日は午後5時から花扇奉納行列があり、秋の七草で美しく飾られた花扇と稚児、御所車に乗った十二単姿の花扇使らが市内を練り歩く。午後6時から采女神社の例祭が営まれ、神事の後、 花扇が奉納される。午後7時から、 南都楽所の奏する雅楽が流れる中で、2隻の管絃船が猿沢池をめぐり、花扇を池中に奉納する。
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