公務員が開発した地ビール再び脚光 県内唯一の「曽爾高原ビール」
約20年前、全国で巻き起こった地ビールブーム。最盛期には300社超がしのぎを削ったが、質の悪いものも少なからずあり、ジャンルが確立する前にブームは終わった。だが最近、そんな地ビールに2度目のブームが訪れようとしており、奈良県唯一の地ビール「曽爾高原ビール」ではネット販売やコラボ企画を展開、高品質を武器に波に乗ろうとしている。
■公務員が作るビール
曽爾高原ビールの開発は、第1次ブームまっただ中の平成9年ごろに始まった。当時、観光拠点施設がなかった村は、レストランを備え特産品の販売も行う「曽爾高原ファームガーデン」の建設を計画。特産品開発で、目をつけたのが地ビールだった。
本場ドイツのブルーマイスター(醸造責任者)、ティム・シュラグヘッケ氏にレシピ作成と醸造技術の指導を依頼。村に住んでもらい、気候風土に合った地ビールを目指した。当時、指導を受けた村地域建設課の木治千和さん(39)は「レシピを作る上で、水が最大の難関だった」と振り返る。
曽爾高原ビールはドイツ産の麦芽と曽爾高原の湧き水で作る。平成の名水百選にも認定された質の高い湧き水だが、ミネラルをほとんど含まない超軟水で、硬水で造られるドイツビールのレシピは使えなかった。「醸造工程のわずかな温度の違いで味ががらりと変わる。微調整を繰り返し、本場の味を再現した」と木治さん。こうして村職員が醸造する一風変わった地ビールが11年に誕生した。
■ブーム終息で6割に
曽爾高原ビールの定番ラインアップは、香りが良く苦みが少ない「ピルスナー」、コクのある「アルト」、フルーティで苦みのある「ケルシュ」の3種類で、いずれも330ミリリットル1本税込み540円。地ビールにありがちな個性的な味ではなく、〝正統派の定番〟だ。
当初の販売は好調だったが、15年ごろにブームが終息すると売り上げが減少。17年ごろからは一般財団法人「曽爾村観光振興公社」に運営・醸造を委託したが減少は続き、一時は最盛期の6割にまで落ち込んだという。同社の第一営業部長、立花弘晶さん(38)も「レストランや温泉施設が好調だったので続けられたが、地ビールだけならやめることになっていたかもしれない」と話すほど厳しい状況だった。
■ネット販売、コラボも
だが、20年にネット販売を始めると、個人客だけでなく商店からの注文が増加。品質を安定させるための改良も重ね、生ビールで提供する店には管理法などをアドバイス。「物珍しさではなく、味で選んでもらうためにおいしいビールを届けることに気を配った」(立花さん)という。
25年には名前が同じという縁で、ゲームメーカー「ニトロプラス」のマスコットキャラ「すーぱーそに子」とコラボ。現在はプロバスケットボール「バンビシャス奈良」とのコラボも進行中で、さまざまな積み重ねの結果、売り上げは最盛期並みに回復した。
帝国データバンクによると、地ビールの市場規模は21年から毎年10%以上のペースで拡大、ブーム再燃の兆しを見せている。奈良が誇る地ビールはこのブームに乗れるか。改良が重ねられた曽爾高原ビールの魅力はぜひ、改めて自分の舌で確かめてみてほしい。(桑島浩任)
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