「寺の美の原点伝えたい」 ドイツ人僧侶・ザイレ暁映さん、興福寺で奮闘中
興福寺(奈良市)で5年前に得度したドイツ人のザイレ暁映さん(37)が研究先の米国から約3年ぶりに奈良に戻り、5月から同寺の僧侶として活躍している。研究してきた法相教学(法相宗)の大本山である同寺で勤行や寺務に励み、8月には同寺佛教文化講座の講師も務める。今後について、興福寺僧侶として「寺の美の原点である宗教性を伝えたい」と張り切っている。
ザイレ暁映さんはドイツのハンブルクで生まれ、10代前半で米国へ。高校時代に日本語に興味を抱き、カリフォルニア大学バークレー校で日本の古典文学を学んだ。大阪外国語大学大学院に留学後、バークレー校の仏教学部で法相教学を研究。平成22年に龍谷大学の客員研究員として来日し翌年、興福寺で得度した。
25年に米国に戻って研究に取り組んでいたが、再び来日。落ち着いて興福寺内で暮らし始め、「自分の荷物もそのまま置いてあり、家族の懐に帰ってきたという感じ」と話す。
毎日早朝から諸堂を参拝。その後清掃や寺務を行い、参拝者らの案内などをすることも。教学の研究にも取り組んでおり、「学問的なことが尊重され、学問の時間を与えてくれる」と興福寺の魅力を説明する。
ただ、阿修羅像(国宝)などの仏像が同寺国宝館に安置され多くの観光客が訪れる様子に、「歴史や美術へ関心が集まりがちだが、寺は博物館ではない」とし、「伝統的な教学の現代における意義を見つけ出したい。宗教空間としての寺をどうやって伝えていくかが課題」とも指摘する。
また、学んだ法相宗の教義である唯識に触れ、「悩みや束縛は自分でつくったもので、それを解消する力も自分のなかにある。受け身ではなく自己改善し、それが社会改善にもつながる」と説明。こうした唯識の教えを分かりやすく伝えるとともに、国際交流にも力を入れたいという。
一方、同寺の多川良俊執事長は「外国人の目に興福寺がどのように映っているか見定めてもらい、それを生かしてインバウンドで活躍してもらいたい」と歓迎している。
ザイレ暁映さんが話す佛教文化講座は、8月13日午後1時から興福寺会館で。テーマは「南都佛教における文殊信仰(上)」。無料。問い合わせは同寺(☎0742・22・7755)。
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