【奈良移住物語】やりたいことやって地元になじむのが〝極意〟奈良・田原地区で29年
奈良市の中心地から車でわずか30分。茶畑や水田が広がる田原地区の同市茗荷町の一角でギャラリー&カフェ&料理教室「ギャラリーファブリル」を営むのは、大阪市から移住した安達泉さん(61)だ。「田舎暮らしが好きだったわけでも、あごがれていたわけでもなかった」と振り返るが、気づけば同地区で暮らして29年。肩肘を張らない自然な移住の在り方を体現している。(桑島浩任)
夫が家具作家で、仕事や材料調達に適した環境を探し求めた末、昭和62年3月に田原地区に移住した。大阪で生まれ育った安達さんにとり、自然に囲まれた環境は「たまに遊びに行くと楽しい場所で、あまり関心はなかった」という。両親も心配したが、「田舎暮らしもありかな」と、深く悩むこともなく移住を決意。田畑に囲まれ、コンビニもスーパーもない環境には驚くこともあったが、「すべてが新鮮で楽しかった」と振り返る。
そして、「暮らすうちに物事の考え方が大きく変わった」。近所の人々が田畑を耕す様子に、「田舎で暮らしてお米や野菜を作るということは、風景や環境を守ることだと知った」と話す。それまでは「安い」「おいしい」など、「自分にとって都合のいい商品を選んでいた」のが、「地元産品かどうかなど、少しでも自然を守るための選択をするようになった」。そんな風に自分の視点を広げてくれた田原地区のことが、気づけば好きになっていた。
移住から12年間は賃貸暮らしだったが、近所の土地を購入、一軒家を建てた。それを機に、平成15年から木工や陶芸品などを展示、即売するギャラリーを開設。ただ人に貸すのではなく、いいと思った作家に自ら交渉したり、告知や演出も考える。
その1年後には、料理教室も開始。料理を本格的に学んだことはなく、教えるのは簡単な家庭料理だが、自然に囲まれたのどかな環境は小旅行のような気分を味わえ、「10年以上続けてくれている人もいる」という。
年に数回、10日前後ずつ開くギャラリーと、月1回の料理教室。どちらも安達さんには重要な収入源だが、始めたのは「ここで展覧会をしてみたいな」という友人の言葉や、振る舞った料理を喜ばれたことなどのちょっとしたことがきっかけだ。「無理をせず、自然にやりたいことをやる。人生も移住もそれが大切」と話す。
一方、「田舎暮らしは桃源郷ではない。田舎ならではの不便さや、都会よりもお金がかかることもある」とも。車は1人1台必須、近くに塾や高校もないため、「子育て世帯なら、都会と変わらないぐらいお金がかかることもある」と話す。
「『地元の人に受け入れてもらえるよう、がんばろう』とか考えず、自分がやりたいことをしてほしい」と安達さん。それは、29年間の経験で気づいた〝移住の極意〟なのかもしれない。
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