【奈良移住物語】築140年の古民家でカフェ 「自然の中で子育てを」
「自然に囲まれた環境で子育てをしたい」と、約17年前に十津川村へ移住。その後、吉野町に移り住み、古民家で「オーガニックカフェはなさか」を営む大工の徳原龍昇さん(52)と、妻の愛子さん(43)。都会で生まれ育った2人だったが、豊かな自然の中で手間を惜しまずに丁寧に作る料理は評判を集め、自然の中で生かされる幸せをかみしめている。
「田舎暮らし」を考えたのは、長女の誕生がきっかけ。「コンクリートに囲まれた都会ではなく、豊かな自然の中で育ってほしい」と移住先を探していたとき、龍昇さんが修理の仕事を請け負ったのが、十津川村にある築120年の古民家。豊かな自然環境にほれ込み、移住を決意した。
互いの両親は「なんで急に田舎へ行くんだ」と猛反対。それでも、「子供の食べ物は農薬も化学肥料も使っていないものにしたかった」という2人の決意は固く、村にあった古民家へ移住。さっそく始めた家庭菜園では肥料、農薬を使わず、除草もしない「自然農法」で野菜を作った。
古民家にあったいろりを使い、ガスではなく薪で料理をした。「収入は減ったが、家族との時間は増えた。子供に自然の中で過ごす楽しさを教えられたことがなにより」(龍昇さん)と、手間のかかる暮らしも楽しんだ。愛子さんは「子供のお弁当を作るのに毎朝2時間かかった」が、「苦労は多かったけど、楽しかった。テレビやゲームではなく、野山で遊んで育ったことは子供にも財産になったと思う」と振り返る。
そんな暮らしを3年間続けたが、最寄りの民家まで車で10分の環境は、子供が近所の同年代の友達と遊ぶのも困難。そこで、吉野町に居を移した。
住まいに選んだのは、またも築140年の古民家。基礎部分が朽ちて床が傾いていたが、「はりには松、柱には立派な檜を使っていて、屋根は杉皮葺。古民家にしかないすばらしい味わいがある」と龍昇さんが良さを見抜いた。「3年間で学んだ自然農法の野菜の良さをたくさんの人に知ってもらいたい」と、自宅兼店舗に改修。オーガニックメニューのみのカフェとして、平成14年4月にオープンした。現在、店は主に愛子さんが切り盛りし、龍昇さんは大工仕事の傍ら店を手伝っている。
予約制の「酵素玄米の食養ランチ」(2500円)は、炊いてから3日間寝かせた玄米とあずきのご飯に旬の野菜で作ったサラダや料理のコース。食材はすべて県内で自然農法で作られたものを使っており、「野菜そのもののおいしさを感じてほしい」と、食材本来の味わいを生かしたこだわりの調理法だ。
予約不要の有機バナナとココナツの米粉ワッフルなどのスイーツや、大麦とイチジクで作ったノンカフェインの穀物コーヒーも人気。「子供に安全なものを食べさせたいが、どこで買えばいいかわからない」という人のため、2人が厳選したオーガニック製品販売も行っている。
「何でもある都会から何もない田舎に移り住んで、物のありがたみや自然のすばらしさ、たくさんのことに気づくことができた」と龍昇さん。愛子さんも「子供もたくましく育ってくれた。移住してよかった」と、笑顔で17年間を振り返った。(桑島浩任)
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