【鹿角抄】〝普通の生活〟へ支援必要、若年性認知症対策
65歳未満で発症する若年性認知症。患者のほとんどは働き盛りで、子育てや結婚など、本人や家族の人生の転機を大きく左右する。平成24年に県が初めて実施した実態調査では、男女計約400人の患者が判明した。だが、絶対数が少ないことから患者の存在そのものや、家族らを取り巻く課題が顕在化しにくく、対策の遅れが目立っていた。
そうした中、奈良では全国で初めて家族会が発足。課題の共有や対策の検討など、地道に取り組みが進められてきた。21年には、患者や家族を支援する「一般社団法人若年認知症サポートセンターきずなや」が立ち上げられた。
代表理事の若野達也さんは「どんな病気かも知られておらず、偏見が強かった」と当時を振り返る。活動の中で、「いつ終わるかわからない介護はつらい」「いなくなってしまえばいいのに」と家族らが漏らすこうした言葉を幾度も耳にした。
若野さんが見てきた介護する家族には、孤立して一人で抱え込む傾向が強く、精神的にも極限まで追い詰められる人が多かった。経済的にも困窮し、家族も当事者も「働きたい」と望む一方、「『認知症になったら働けない』と思っている」と感じたという。
若野さんは「経済サイクルの中に認知症の人が自然に入る社会」を目指し、「きずなや」を設立。若年性認知症患者を労働者として登録しようと、「時給800円」「週4日」などの条件で、職業安定所に若年性認知症患者を募集する求人情報の掲載を依頼した。
だが、掲載は断られた。説明を求めると、担当職員は「認知症患者を『一般雇用』とは考えていなかった」と話したという。
こうした現実が浮き彫りになる一方、解決への道のりは遠い。当事者が〝普通の生活〟を送るには、家族らの日常生活への支えがまず必要だ。
「きずなや」のような先進的な取り組みを軸に、若年性認知症を取り巻くさまざまな課題に対応できる〝先進県〟となれるよう、「患者」を「地域の一員」と受け入れられる社会づくりが進んでほしいと思う。(山﨑成葉)
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