「2度と起こしたらいかん」 楓ちゃん事件11年 地域巡回続ける元捜査1課長・葛本さん
「2度とあんな事件を起こしたらいかん」。平成16年に奈良市立富雄北小1年の有山楓ちゃん=当時(7)=が誘拐、殺害された事件から17日で11年。当時、県警捜査1課長として捜査にあたった葛本英治さん(66)は、この誓いを胸に、退職した今も防犯活動を続けている。
11年前。平群町で見つかった楓ちゃんの変わり果てた姿は、今も忘れられない。それまでの刑事人生34年余りで、最も凄惨な事件だった。
「敵をとろう。自分の子や孫が被害者だと思ってやってくれ」
小林薫元死刑囚からは、捜査をあざ笑うかのようなメールが遺族に送り付けられた。懸命の捜査は44日間に及んだが、誰1人弱音は吐かなかった。
年末が近づいた12月27日。「この事件、できました!」。捜査員が自信に満ちた口調で語った言葉が、今も脳裏に焼き付いている。30日、小林元死刑囚を逮捕。葛本さんは「捜査員の執念だった」と振り返る。
事件翌年の17年3月。遺棄現場の平群町を管轄する西和署長に着任した。「あんな事件は2度とあったらいかん。ここの治安は絶対守る」と心に誓った。すぐ、県警で同年2月に導入した「青色防犯パトロール(青パト)」を、平群町を含む管内7町に導入するよう働きかけた。
「退職してもやりますので、みなさんお願いします」。熱意を受け、平群町は6月に町独自で1台購入。ほかの町でも導入が進み、葛本さんもできる限り「出発式」に参加した。
退職を控えた21年3月、自ら青パトの許可証を取得した。退職後はすぐ、県警OBと2人で月5回程度、青パトで地域を巡回。約15人でつくる「自主防犯ボランティア」メンバーで歩きながらの巡回にも取り組み始めた。「気をつけて帰りや」などと声をかけながら夕暮れ時、人目につきにくい公園などで見守り活動を続けている。
地道な活動は、少しずつだが広がっている。県内の青パト登録台数は17年末は289台だったが、26年末には約4倍の1176台にまで増加。防犯意識が着実に高まってきたと感じる一方、奪われた命の重さと無念さは、今も消えない。
「2度と犠牲は出したらいかん。少しでも役に立てたら」。静かな誓いは、今も固い。
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