880回の重み、受け継いだ人々の思い体感 春日若宮おん祭お渡り体験記
創始以来、大和一国を挙げて行われてきた「春日若宮おん祭」。17日に奈良市の春日大社周辺で行われたお渡り式に、記者も奉仕者として参加した。由緒ある神事と豪華絢爛の芸能が満載の伝統行事を体験する中で感じたのは、880回を重ねる儀式の重みと、それを受け継いできた人々の思いだった。(浜川太一)
おん祭の起源は、飢饉や疫病に見舞われた平安時代の末期。荒ぶる神を鎮めるため、大和の人々がさまざまな芸能で奉仕して始まったとされる。
毎年12月17日に行われるお渡り式は、前夜に神社からお旅所の御仮殿に移った神のもとへ、芸能集団がお参りする時代行列。記者は、行列の前から5番目を行く「田楽座」の花笠持を務めさせてもらった。
午前9時半、餅飯殿町にある春日大社大宿所に集合した。神職から「奉仕者として毅然とした態度で」「沿道に手は振らないように」などと諸注意を受けた後、早めの食事を済ませて古式装束に着替える。「退紅」という薄紅色の狩衣に、山吹色の単(ひとえ)の組み合わせが鮮やかだった。
正午。県庁前を出発地点に、いよいよお渡り式が始まった。不思議と雲間が広がり始め、陽光が明るさを増す。おかげで、寒さをあまり感じない。沿道を埋める人々の視線と数に、思わず姿勢を正した。手に持つ直径約80センチ、重さ約3キロの花笠が傾かないよう、慎重に歩く。花笠に飾られた木彫りの奈良人形に「わあ、お人形さん」と、子供たちの甲高い声が聞こえてきた。
行列はゆったりとした歩みで西へ進み、JR奈良駅前から三条通りへ。次第に慣れてきて、つい漫然と歩みを進めていると、思いがけず強い風が吹き付けた。神の鋭い視線を受けているかのようで、その都度気を引き締めた。
馬のひづめがかつかつと乾いた音を立て、絵巻物のように続く華やかな行列は、予定より少し早く一の鳥居に到着した。お旅所へ入る前の「松の下式」で田楽を舞う演者に花笠を手渡し、約2時間、3キロの行程を無事終えた。
天下太平を祈り、絶えることなく続けられてきたおん祭。人知を超えた大きな存在に対する人々の畏敬の念が、奈良の歴史と文化を作ってきたのだと感じた。
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