外国人に「和のこころ」を伝える極意とは? 〝不思議〟に触れる体験が不可欠
奈良でも増加する外国人観光客に、いかに文化を伝えるか-。ならまち(奈良市)のある旅館では、奈良らしい「墨あそび」を体験できる機会を提供し、同市内のNPO法人は欧州や東南アジアに出向いて伝統行事や芸能などを紹介する活動を展開している。和を伝えるこうした活動に注目したい。(岩口利一)
■外国人観光客が倍増
東大寺や興福寺、春日大社の境内など、奈良公園周辺の至る所で多くの外国人観光客が散策する様子が日常の光景となってきた。
日本政府観光局(JNTO)の調査では、県内を訪れた外国人客数は平成26年は66万3500人で、10年前の2倍以上に増加。27年はさらに増える見込みという。国別では台湾、韓国、中国からが大半で、欧米では米国のほかフランスなどが目立つ。
こうしたなか、県は外国人観光客らのための施設「猿沢イン」を昨年7月にプレオープン。書道やお茶会などが体験できるイベントを実施しており、好評を博しているという。県ならの観光力向上課の辻勝式係長は「日本文化の源流である奈良を知ってほしい」と話す。
■宿泊客の8割が欧米人ら
猿沢池から少し南に歩いたところにある「旅館松前」。こぢんまりとしているが、宿泊客の8割以上はフランス、イタリアなどからの外国人だ。
口コミなどで次第に増えたようで、宿泊客が体験できる「墨あそび」も人気。墨で好きな言葉を色紙に書いて持ち帰ることができ、思い出の品にもなる。「むしろ外国人の方が墨や筆、和紙に興味を持っているくらいです」と、女将で書家でもある柳井尚美さんは感心する。
畳や香、墨…。旅館はそんな日本、奈良らしい匂いに満ちている。「故郷の匂いというものがあり、奈良には奈良の匂いがある。匂いは記憶に強烈に残り、墨などの匂いから日本を思い出してもらいたい」と柳井さんは話す。
テーブルもベッドもなく、外国人は膳の料理を食べ、畳に敷かれたふとんで寝る。ホテルでは体験できないそんな和が、人気の秘密でもあるようだ。
■イタリアで百人一首
四季の行事など日本文化を紹介しているNPO法人「日本文化研究所なら」は、国内だけでなく海外への「出前授業」に力を入れている。
これまでにスペインやフランス、ベトナム、今年2月にはイタリアでも実施。理事長で帝塚山大非常勤講師(日本芸能史)の勝部月子さんや理事の丸岡栄美さんら16人がサピエンツァ・ローマ大学を訪れた。
授業では日本語・日本文学を学ぶ学生らを対象に、百人一首など日本の正月を中心に紹介。帝塚山大学の学生らが香りの良い吉野の杉板を使って作った札を持っていき、現地では同大学院生が解説した。
勝部さんは「日本に関心のある人は表面ではなく、不思議な独自性を持つ日本人の心に触れたがっている」と手応えを感じており、「五官で感じてもらえることを大事にし、今回は吉野杉の香りも楽しんでもらった」と話す。
日本人は気づかない魅力もあるようで、「伝えているうちに得るものも多い」と勝部さん。日本や奈良の文化を伝えることは、私たち自身が理解を深めることでもある。
【関連記事】
課題山積ですよ 訪日外国人へのおもてなし 奈良市で接客セミナー
外国人旅行者「売上げに貢献」 奈良大生が宿泊施設調査 リピーター課題
外国人向け案内所最高ランクに 年末改装の奈良市総合観光案内所
外国人が後押し、34万8000人増の1414万人 昨年の奈良市観光客
(関西のニュースは産経WEST http://www.sankei.com/west/west.html)