戦国時代の豪族・十市氏の謎に迫る 元高校教諭らが自費出版
戦国時代に現在の橿原市十市町(市北部)を拠点に大きな勢力を誇った豪族・十市(とおいち)氏についてつづった「戦国期の大和十市氏と本拠集落」(205ページ)を、同市の元高校教諭らが自費出版した。当主や十市氏出身の僧侶の姿にも触れ、その盛衰を詳細にまとめている。同氏のことが一般図書で本格的に紹介されるのは初めてという。本は国立国会図書館のほか、県立図書情報館、橿原市立図書館などにも寄贈された。
執筆したのは元高校教諭の中村昌泰さん(80)と、元同市職員で市文化財審議会委員の森本育寛さん(68)。中村さんは親類が十市町在住で、地元の人と親交を深める中、歴史書の出版を計画。森本さんの協力を得ながら古い資料を調べ、研究者の話を聞くなどして、約7年がかりで出版にこぎつけた。
十市町付近は古代、朝廷の直轄地として栄え、その後興福寺領となる中、土着の豪族・十市氏が力を伸ばした。十市氏は南北朝時代は南朝方で戦い、16世紀前半、当主の十市遠忠のときに大和の五大武将に数えられるほどに台頭。現在の桜井市、天理市、田原本町付近を含めて支配した。十市集落の北側には当時の巨大な平城跡が残る。
だが、動員できる兵力は数百騎程度だったとみられ、戦国武将・三好長慶ら大勢力によって翻弄される。
本ではそうした歴史とともに、「多聞院日記」の著者で十市氏出身の興福寺の僧・多聞院英俊の十市郷への思いとその生涯、遠忠の跡を継いだ遠勝の娘・おなえの波乱の足跡、十市集落の概要や十市城の構築についてもつづっている。
中村さんは「十市氏についてはこれまで紹介されておらず、おなえのことを含めてぜひ書きたかった。十市町の集落は昔の姿をとどめており、歴史的価値がある」。森本さんは「奈良では古代史についての関心が高いが、中世・近世についてももっと知ってほしい。十市城の城跡はよく残っており、調査して保存すべきだ」と話している。
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